北村晴男弁護士の法律相談 2018年5月

北村 晴男
弁護士(東京弁護士会)
1956(昭和31年)年生まれ。長野県出身。
1992(平成4)年に個人事務所を開設し、2003(平成15)年に法人化。生命保険、交通事故、医療過誤、破産管財事件、家事事件など多岐にわたる事件を処理している。
弁護士法人 北村・加藤・佐野法律事務所代表。
メルマガ「言いすぎか!! 弁護士北村晴男 本音を語る」(まぐまぐ!)配信中

離婚した夫の遺産を相続するかと未成年の息子に連絡が!母親は息子の相続を放棄できるの?

10年前に夫と別れ、8歳の息子と2人で生活しているシングルマザーです。先日、まったく知らない弁護士さんから、「元夫が亡くなったので息子へ遺産相続がある」と連絡がありました。「借金も相続されると聞いたことがあるので遺産相続は放棄したい」と電話口で伝えたのですが、弁護士さんから借金はないこと、相続主は私ではなく息子だからと言われました。かといって8歳の息子にどうするか聞いても…と思い、20歳までの養育費だと思って、遺産相続を受けることにしました。でも、一緒に生活していた頃の夫は金銭感覚がなく、もらった給料の半分を1日で使ってしまうような人だったので正直借金もありました。だから、本当に借金がないのか不安です。弁護士さんは正式な書類を私の自宅に送ると言っていましたが、その正式な書類で借金の有無を判断することはできるのでしょうか? また相続者が未成年の場合は、その親権者が遺産放棄することはできないんでしょうか?
 (旭川市/KH)

 本件は、相談者の元夫が最近死亡し、8歳の息子さんがその法定相続人になったというものです。法定相続人には、相続を①承認する、②限定承認する、③放棄する、の3つの選択肢があります。①の承認は、財産も借金もすべてを受け入れるということです。②の限定承認は、プラスの財産で、マイナスの財産… つまり借金を全部返せたら、残った分を相続する。もし、借金の方が多ければ、相続財産で借金を返すけれども、自腹は切らないというものです。ただ、限定承認は相続人全員が、そろってしないとできない手続きです。本件は、連絡してきた弁護士の立場が詳しく書かれていませんが、例えば別れた後に再婚をした奥様や、そこに出来たお子さんなどがいて、奥様等の代理人弁護士が連絡してきたとしましょう。向こうの奥様は相続する意向だとすれば、こちらだけ限定承認することはできません。そうなると、こちらが選択するのは相続を承認するか、放棄するか、2つに1つです。しかし、8歳では自分の利害をきちんと判断できないので、そのために未成年者には親権者という法定代理人がいます。それが相談者であるお母さんです。お母さんが親権者として承認か放棄の判断をすれば良いということになります。
 もし仮に、正式に離婚していなかったために、お母さんも相続人の1人だと、お子さんとお母さんの利害が相反する場合があります。自分は相続をしてお子さんだけ放棄するケースです。その場合には家庭裁判所にお子さんの特別代理人を選任してもらい、特別代理人がお子さんのために放棄するか相続するかを判断することになります。ただ、本件では、離婚をされているようなので、お母さんは相続人ではないため息子さんと利害が相反しませんので、特別代理人の選任は必要ありません。お母さんが息子さんのために、親権者として相続をするのか放棄をするのかを決めることになります。
 
 この亡くなった元ご主人が、婚姻当時に多くの借金をかかえている人だったとすれば、不安ですね。弁護士から借金が無いと言われても、どこまできちんと調査されているかわかりません。ましてや借金というのは本人しかわからない面がありますからね。借金が無い様に見えて実は…ということは、この世の中にはたくさんあります。ましてや、元々お金にだらしない人で10年前も多額の借金があった人なら、現在も借金を残している可能性が十分にあります。弁護士が言うことを安易に信じて承認するのは、やめた方がいいですね。電話で弁護士と名乗っただけであれば、もしかしたら、嘘があるかもしれません。と言うのも、一般的に弁護士ならば、単に「借金はありません」と言うことは考えにくいです。「亡くなった元ご主人は借金はないと言っていましたが正確なことは分りません」とか「調べた限り、これだけの遺産があるので借金はない可能性が高い」などと言うはずです。借金がないと言い切るのは、違和感があります。もう一つは、「相続人は息子さんであなたではない」と言うのは、それだけ見ると間違いではないけれども、少し不親切です。「お母さんは親権者であって息子さんの法定代理人だから、息子さんに代わって相続を放棄するか、承認するかを判断することができます。」と付け加えるのが普通です。それを言わなかったとすれば、弁護士でない可能性もあります。弁護士かどうか確認してください。電話番号とフルネームを聞いて弁護士会に問い合わせてみると分ります。もし弁護士ならば、相談者が重要な点を聞き漏らしている可能性がありますから、もう一度よく話を聞いてください。
 
 相続を放棄するのであれば、お母さんが息子さんのために相続が開始したことを知った日から3ヵ月以内… 息子さんのために相続が開始したことを知った日とは、本件では電話で元夫の死を告げられた日でしょうね。放棄する場合には元夫が亡くなったと連絡を受けたその日から3ヵ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出する必要があります。この期間を熟慮期間と言います。熟慮期間内に何もしないと、法定単純承認と言って、相続を承認したことになってしまいますので、くれぐれも注意してください。3ヵ月では調査しきれないという場合… 本件のように長く離れて暮らしていたような場合は3ヵ月ぐらいではわかりませんよね。その場合は、家庭裁判所に熟慮期間伸長の申し立てをすることができます。例えば、「長い間別れて生活をしていたので、父親がどういう生活をしていたか、まったくわからず、調査に時間がかかるので6ヵ月間伸長してください」という申請をします。裁判所は適切な期間、熟慮期間の伸長を認めてくれると思います。その間に借金がないかなど、いろいろと財産調査をする。仮に、元ご主人が10年前に別れてから、すごく真面目になり一生懸命頑張って働いて、例えば預金を2千万円貯めましたとなると、一般的には、頑張って2千万円を貯めた人がほかに(住宅ローン以外に)多額の借金をしていることは考えにくい。借金をたくさん抱えている人って返済のために預金等を取り崩してしまうので、預金等がほとんど無いことが多いですからね。仮の話、いろいろ調査をしたらプラスの財産が2千万円ありました。家も持っていました。不動産の登記情報を見たら、住宅ローンによる抵当権以外には何も付いていません。もし、そういう人だということがわかれば、借金がない可能性が高いんですよ。借金が無いことを完全に把握することは難しいのですが、外形的事情からある程度推測することはできます。それに対し、現金や預金が計10万円しかない、他の資産を合わせても50万円も無い。家も賃借しているとなると、見えないところで借金をしている可能性があります。そうだとしたら、相続を「承認」するのはリスクが大きいですから、「放棄」という判断になるでしょう。ですから、裁判所が熟慮期間を伸長してくれたら、その間にプラスの財産がどの程度あるのかを調べただけでもある程度の判断はつきます。他方、仮に金融機関から借金をしている場合に、借り主が亡くなったことがわかると、相続人に対して金融機関が督促状を送ってきます。金融機関は戸籍を調査し法定相続人に対して請求書を送ってくるんです。正確ではありませんが、それを送ってくるのは借り主が亡くなってから早くて2ヵ月後ぐらい、普通は4〜5ヵ月後ぐらい。まともな金融機関だったら相続人に対して早めに請求書を送ってきます。例えば、亡くなってから10ヵ月ぐらい経ってもなんの督促状も来なければ、「借金はなかったのかも」となります。
 
 その様にして、プラスの財産があるかないかを確認するとともに督促状が送られて来ていないかどうかを、元ご主人が亡くなった時の住所とかほかの相続人に確認すれば、ある程度はわかってきますので、その段階で判断をすればいいということになります。それでも不安がぬぐえない場合は、パッと相続放棄をした方が安心です。なお、一つの可能性としては、あまり一般的ではないけれども、たちの悪い金融機関が弁護士を名乗って、早く相続を承認させるために、まずは元ご主人が亡くなったことを知らせて3ヵ月間の熟慮期間をスタートさせた可能性も考えられます。この点は、ちゃんと検討しないといけませんね。いずれにしても、判断に迷うときは、とりあえず熟慮期間伸長の申し立てをした方がいいですよ。
   

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投稿先:info3@asatan.com「北村弁護士法律相談」まで

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