北村晴男弁護士の法律相談 2018年12月

北村 晴男
弁護士(東京弁護士会)
1956(昭和31年)年生まれ。長野県出身。
1992(平成4)年に個人事務所を開設し、2003(平成15)年に法人化。生命保険、交通事故、医療過誤、破産管財事件、家事事件など多岐にわたる事件を処理している。
弁護士法人 北村・加藤・佐野法律事務所代表。
メルマガ「言いすぎか!! 弁護士北村晴男 本音を語る」(まぐまぐ!)配信中

目の前で大きな交通事故があり、逃げようとして大ケガ。事故を起こした運転手に治療費を払って貰うことはできますか?

ウチの息子が、直接的な接触ではありませんが、目の前で車と車の激しい衝突(交通事故)を目撃したことに驚き、逃げようとして転んで左足の十字靭帯を損傷してしまいました。事故は、一時停止の標識のない脇道から、右折して幹線道路に出ようとしていた車が、幹線道路を走っていた直進車に激突し、ぶつかった勢いのまま2台の車が歩道近くまで迫って来たようです。転倒して動けなくなっていた息子は救急車で病院へ運ばれていました。直接的なケガではないですが、事故を起こした運転手に治療費を払って貰うことはできますか? 偶然その場に居合わせた隣人が、その事故現場の写真を携帯電話で撮っていたので事故を起こした車のナンバーはわかります。
(旭川市/真奈美)

 ご相談の内容は、交通事故が目の前で起こり、「事故を起こした車2台がその勢いのまま歩道近くまで迫り、相談者の息子さん(以下「Aさん」といいます)が危険を感じ逃げようとして転倒しケガをした」ということのようです。もしこれが一般の人がAさんの立場に立って、「咄嗟に逃げなければ自分の身が危ない」と思う状況にあったかどうかが問題です。もしそうなら、逃げようとして転倒することは事故の当然の結果と考えられます。つまり、転倒してケガをしたことはこの交通事故と相当因果関係のある損害ということになります。そうするとAさんは、事故の原因を作った人、つまり事故を起こすにあたって過失のあった人に対して損害賠償を請求することができます。本件では、「一時停止の標識のない脇道から、右折して幹線道路に出た車」があります。通常はまずこの車の運転者に過失がありそうです。過失があるかどうかは具体的な事故の状況によります。一時停止の標識のない脇道ということであれば、恐らく双方から見通しがいい道路なのでしょう。幹線道路が優先道路であることは間違いないので、まず脇道から幹線道路に入る車は、左右の状況を確認して幹線道路を走行する車両の運行を阻害しないように十分注意する義務がありますから、まずほとんどの場合この車に大きな過失があるでしょう。

 他方で、幹線道路を走っている車から見ても脇道から幹線道路に入ろうとする車は容易に発見可能で、その動向に注意すべき義務がありますので、それとの衝突を回避するために減速すべき義務などがあり、それに違反したことによって事故が起こったと言える場合も多いでしょう。ただ、幹線道路を走ってきた車の直前で脇道から入って来られた場合は、これはもう避けようがありませんから、脇道から入ってきた車が過失100、幹線道路を走ってきた車が過失0の場合も、状況によってはないわけではありませんが、8対2とか7対3など、双方に過失があるという場合が圧倒的に多いと思います。
 そうすると、例え1割でも、あるいは例え5%でも交通事故について過失があれば、その過失ある人に請求できます。本件の場合は脇道から入ってきた車と幹線道路を走ってきた車、双方に過失がある場合が多く、その場合双方の運転者の共同不法行為によってAさんがケガをしたということになります。この場合、治療費と慰謝料の合計額を双方に全額請求することができます。この双方の債務は法的には不真正連帯債務と言い、Aさんは運転者双方に全額請求できるのですが、例えば、どちらかが全額、あるいは双方合わせて全額支払われれば、もちろんそれ以上は請求できません。当然ですが、二重取りができるわけではありませんが、損害全額に達するまで双方に請求することができることで被害者が保護されています。

 他方で、このAさんに過失があるかどうか、もしAさんにも過失があったとすれば、その場合は過失相殺の対象となります。仮に過失が1割あるとすれば損害の9割分しか請求できません。ただ本件の事情からするとAさんに過失があるケースはほとんどないと思います。ただ、咄嗟のこととはいえ、普通の人だったら転倒はしないよね、というような事情… 例えば下駄を履いていた場合に、下駄の歯が大きく欠けていて転倒しやすい危険な下駄を履いていたという状況なら、その人に過失が認められることがあります。下駄だからいけないということではありません。そういう特殊な場合でない限りは、過失相殺はなさそうです。他方、十字靭帯損傷というケガの発生にあたって、この人の身体的な特徴…、何らかの十字靭帯を損傷しやすいような特殊な身体状況にあったようなケースであれば、素因減額と言って、その人の身体の素因(その人が持っている性質のこと)が損害を発生させるにあたって原因を与えているということで素因減額をされる可能性があります。これは過失相殺とは違いますが、公平の観点から過失相殺と同じような計算方法で2割とか3割とか削られます。
 慰謝料をどうやって算定するかというと、治療のために入院や通院をした場合に、その期間をもとに機械的に慰謝料額が算定されます。これは通称「赤い本」の中に慰謝料の算定基準というものがあり、裁判実務もほぼこの表に基づいて慰謝料額を認めています。例えば1ヵ月通院して治りました、入院はありません、というケースでは28万円程度が通院慰謝料として認められます。仮に1ヵ月入院して、その後1ヵ月通院して治りましたという場合なら、入・通院慰謝料として77万円程度が認められます。これは表になっていますので、その表を確認して頂ければ、大体の慰謝料額の目安がわかります。

 ところで最後に「隣人が、事故を起こした車のナンバーを写真撮影している」ということですが、現在は車のナンバーから所有者を特定する作業は簡単ではありません。昔は、陸運局で誰でもナンバーから誰の車か所有者を突き止めることができましたが、現在は個人情報保護の観点から、それができません。それをするには、弁護士に依頼して、陸運局などに対する弁護士法上の照会請求をする必要があります。なので、手っ取り早いのは警察に、自分の息子がケガをしたので自動車運転過失致傷として捜査をお願いします、ナンバーはこうですと被害相談をすれば警察はすぐに調べてくれます。これにより示談交渉をすることが可能になります。本件事故はそこそこ大きな事故ですから、事故処理がなされているでしょうから、警察へ行けばすぐに加害者はわかります。万が一、事故処理していなかったとすれば、警察が新たに事故と認識して捜査を開始することになります。

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投稿先:info3@asatan.com「北村弁護士法律相談」まで

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