2020年02月08日

【身近なお悩み法律相談】遺産分割では住んでいる家の売却は必要?

弁護士に相談するようなトラブルや問題なく暮らしたい。でも、何かあったときのために知っていて損はない! そんな身近で起こったお悩みに、テレビなどでも活躍している【北村晴男弁護士】が答えてくれた、身近なお悩みの解決法&アドバイスを紹介します。


義父名義の家と現金5,000万円を合わせて五等分してくれと主張されて…

先日、義理の父が亡くなり、葬儀が終わった途端、夫の兄姉たちが遺産相続の話をし始めました。

義父が気難しいところがあったので、兄姉たちは盆も正月も顔を見せることはありませんでした。

義父が体調を崩したと知っても、看病や身の回りの世話は、私たち夫婦にまかせっきりでした。

今、住んでいる家と土地は、夫たちが小さい頃から住んでいた場所で、義母が亡くなって、夫は5人兄姉の末っ子の三男なのですが(5人全員元気です)、私たち夫婦が義父の面倒をみることになり同居しました。

名義は義父のままのため兄姉たちは、家と土地を売った金額と、義父が遺した現金5000万円を合わせて、キッチリ五等分してくれと主張しています。

築40年以上の家ですが、土地の値段は不動産屋さんに相談したら1000万円と言われました。
長年暮らした家を出るのはイヤなので夫は「現金5000万円はいらないから、家にこのまま住ませてくれ」と言っていますが、兄姉は納得してくれません。

実際、家と土地の名義は義父ですし、私たち夫婦は兄姉の言うとおり、家を出なくてはならないのでしょうか?  

(旭川在住/Y子)

遺産分割の方法は、【話し合い】【遺産分割調停】【遺産分割審判】

通常、【遺産分割の方法】などは、相続人同士の話し合いで決められますが、話し合いがまとまらないときは、【遺産分割調停】で第三者の調停委員の意見も聞きながら話し合いをします。

調停が成立しないと【遺産分割審判】になります。

そこでは裁判所が全員の意見を聞き、これまでの経緯・遺産の総額・遺産内容・相続人の希望、あるいは社会経済的な効用など、様々な観点から決められます。

まずは、各人の【取得割合】ですが、相続人は5人兄姉のみのようですので、法定相続分に従うと【5分の1ずつ】になりそうです。

ただし、相談者のご夫婦が、同居して義父の面倒をみられたようですので、【寄与分の主張】が問題となります。

寄与分とは、相続人が被相続人の財産の維持または増加に対して労務の提供や療養看護などにより特別の寄与をした場合に、付加される相続分のことです。

自分たちが義父と同居して面倒を一生懸命にみてきたから、介護人を雇わなくて済んだ。
介護の人を雇っていれば相続財産なんてどんどん減って、半分になっていたはずだ。
だから寄与分があると主張したいところですが、この程度ではなかなか認められません。

親族であれば多少の看病や身の回りの世話をするのは当たり前のことで、通常の扶養義務の範囲内のこととされ、「特別の寄与」とは認められません。

そのため本件は、寄与分が認められて取り分が多くなることはないでしょう。

よって兄姉が5人ですから相続分は全員5分の1となります。  

土地と建物の価値の、時価評価を算出して…

次に、土地と建物の価値を時価評価します。

一般に、築40年以上の家では建物の価値は0です。

どんなに立派でも建物の価値は評価されません。

不動産屋の評価によれば土地は1,000万円ですので、土地・建物併せて1,000万円の価値となります。

これに現金5,000万円を合わせて合計6,000万円の価値のものを法定相続分5分の1ずつ分けることになると一応考えられます。

ただ、実際の遺産分割では、Y子さんの夫が土地の価値は1,000万円だと主張しても、〈土地の評価が高い方が有利だ〉と考える相続人から、例えば、その土地は1,200万円とか、1,500万円の価値があると主張されることがあります。

そのような場合に裁判所は、各相続人の意見を聞いた上で、必要であれば鑑定を依頼するなどして、土地の価値を決めることになります。

その結果、例えば、土地の価値が1,200万円と決まったとすると、遺産総額は6,200万円になるので、1人1,240万円相続することになります。

この場合は、間違いなく裁判所はY子さんの夫の希望を尊重して、計1,200万円の価値の土地建物と現金40万円の相続を認めてくれます。

他の相続人は1,240万円の現金を相続することになります。

この場合、家と土地を売らなくてすみます。  

仮に、土地が1,500万円と評価されれば、遺産総額は6,500万円となりますので、1人当たり1,300万円相続すべきことになり、Y子さんの夫が1,500万円の価値の土地建物を相続すると、200万円貰いすぎになります。

この場合は裁判所が、Y子さんの夫に対して、200万円を支払うつもりがあるか否かを聞き、そのつもりがあると答えれば、裁判所は、Y子さんの夫に土地建物を相続させて、差額の200万円を支払うよう命ずることになります。

仮にY子さんの夫が、土地建物は相続したいが、200万円は支払えないと頑なに主張すれば、土地建物の相続は認められません。

その場合は、例えば土地建物は5分の1ずつ共有で相続し、現金を1,000万円ずつ分けることになり、結局は将来土地建物を売らざるを得なくなるでしょう。

合理的ですね。  

北村 晴男
弁護士(東京弁護士会)
■1956(昭和31年)年生まれ。長野県出身。
■1992(平成4)年に個人事務所を開設し、2003(平成15)年に法人化。生命保険、交通事故、医療過誤、破産管財事件、家事事件など多岐にわたる事件を処理している。
■弁護士法人 北村・加藤・佐野法律事務所代表。
■メルマガ「言いすぎか!! 弁護士北村晴男 本音を語る」(まぐまぐ!)配信中

出典:asatan

 

この記事のキュレーター

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