2020年02月15日
弁護士に相談するようなトラブルや問題なく暮らしたい。でも、何かあったときのために知っていて損はない! そんな身近で起こったお悩みに、テレビなどでも活躍している【北村晴男弁護士】が答えてくれた、身近なお悩みの解決法&アドバイスを紹介します。
本件では親水性コーティングした車を作る契約をしたのに対して、そのとおりの車を納品していないのですから、債務不履行には間違いない。
この場合、再施工では変色してしまって意味がないものと仮定すると、法律上、①親水性コーティングをした車をもう1度作って納品しなさいと言えるのか、それとも②損害賠償しか認められないのかが問題となります。
まず、①の立場によると、親水性コーティングを施した注文通りの車を納車しなさい。
一定の期限までに納車しないのなら契約を解除します、とディーラーに通告することになります。
その場合、ディーラーが「もう作りません」と言った場合には、車を返すのと引換えに代金を返してもらうことになります。
これを解除に伴う原状回復といいます。
その場合、細かい話ですが、車はもう既に使っており、中古車になっているのでその車を返しただけでは原状回復にならないので、相談者がおっしゃっているように、4ヵ月乗った分をレンタカー代金相当額として自分が払うと申し出ておられるのは、それなりに合理的だと思います。
しかし、他方で、その間のレンタカー代金は相手の発注ミスによって生じた損害と見ることもできます。
本来は車を使えたはずなのに、契約を解除したことによって使えなくなる、そういう損害が相談者に生じますので、4ヵ月分のレンタカー代金相当額を差し引いて、結局車だけを返せばいいと考えることができます。
それに対して②の立場からすると次のとおりです。
確かに注文内容と少し違うものを納品してしまったかもしれないけれども、そのわずかな違いで解除を認めるのは、社会経済的に不合理なので解除は認めないという考え方です。
この立場に立つと、損害賠償だけが請求できる。
つまり、その車を使い続けなくてはいけない、返すことは出来ない、代金も返してもらえない、ただ損害賠償だけは請求できるという考え方です。
本来親水性コーティングにしたかったのに撥水性コーティングになったことによって、どんな損害が生じたのかが問題ですね。
その場合、この損害評価をどう考えるか非常に難しいです。
例えば、コーティングの瑕疵(キズ)を、全体の代金の5%ぐらいの損害と考えて、損害賠償を認めるという考え方もあります。
以上、仮に裁判になった場合に①と②どちらの考え方が認められるのか、判例が見当たらないので判断が難しいです。
そもそも契約は守るのが大原則なので、完全履行を求められないのは基本的におかしい。
しかし注文住宅などの場合は、ごくわずかに注文とは違うものができたとしても、全部壊して作り直すというのは、あまりにも社会経済的に不合理です。
一言でいうともったいないということです。
我慢してその家に住んでください、あとは損害賠償で勘弁してください、という方が合理性があります。
では、車の場合はどうか。
①の立場に立って、完全履行を求めたときは、ディーラーは撥水性コーティングの車を引き取ることになります。
その車の代金は下がるとしても、また売ることができます。
ほかに売ることで相当額は回収できますから全額がディーラーの損害になるわけじゃない。
そもそも発注ミスをしたのはディーラーですからその程度の損失を被るのも仕方ない。
日本では中古車市場が十分に発達しているので、車自体が無駄になることはほとんどないですよね。
ということであれば社会経済的に不合理だ、つまりあまりにももったいないという状況ではない。
ですから、最初に申し上げた、注文通りのモノをもう1回作って納車しなさいという請求を認めるという考え方にも十分合理性があると思うわけです。
北村 晴男
弁護士(東京弁護士会)
■1956(昭和31年)年生まれ。長野県出身。
■1992(平成4)年に個人事務所を開設し、2003(平成15)年に法人化。生命保険、交通事故、医療過誤、破産管財事件、家事事件など多岐にわたる事件を処理している。
■弁護士法人 北村・加藤・佐野法律事務所代表。
■メルマガ「言いすぎか!! 弁護士北村晴男 本音を語る」(まぐまぐ!)配信中
この記事のキュレーター
出典:asatan