2019年06月05日
弁護士に相談するようなトラブルや問題なく暮らしたい。でも、何かあったときのために知っていて損はない! そんな身近で起こったお悩みに、テレビなどでも活躍している【北村晴男弁護士】が答えてくれた、身近なお悩みの解決法&アドバイスを紹介します。
この相談は、あなたが30万円を自分で返済することが前提になっています。
基本的に財布の中のクレジットカードを盗まれて、勝手に使われた、というのであれば、当然ながらカードの名義人に責任はありません。
だから、その旨をクレジット会社に説明して、クレジット会社が要求する書類を提出すればあなたは30万円プラス利息の支払いを免れることができます。
ただ問題なのは、あなたが、例えば彼氏に目的を限定してカードを使用させたケースです。
「このカードで、ガソリン代を支払っていいよ」と言って使わせていたとします。
それをいいことにその彼氏がガソリン代の支払いだけでなくキャッシングもしていた…。
キャッシングするには通常暗証番号が必要ですが、それを知らせていなかったとしても、付き合っている彼氏であれば、何らかの方法で暗証番号を知る可能性はありますよね。
クレジットカードを他人に使わせることは契約違反ですから、この場合にはカードの名義人が支払わなくてはなりません。
それに対して、クレジットカードを相手に渡したことがないのに勝手に使われたということであれば、あなたは原則として責任を負いません。これでこの件は解決です。
手続きの方法ですが、クレジットカードの不正使用があった場合に、『カード会員は直ちにカード会社に届け出るとともに、警察署に紛失届・被害届を提出し、その受理を証明する文書を提出すること。
この場合、カード会社が届出を受けた日から遡って60日目以降に生じたカードの不正使用については、会員は支払責任を負わない。』これが一般的なカード約款の内容です。
彼氏が黙ってあなたの財布からカードを抜き取って勝手にキャッシングしたのであれば、あなたが警察に被害届を出して、その受理証明書をクレジット会社へ提出すれば、あなたは支払いを免れることができる可能性が高い。
請求書を見てすぐに手続きをすれば、間違いなく免責されるでしょう。
ただし、この彼氏と同居していた場合はダメです。
家族とか同居人とか留守番の人がクレジットカードを不正使用したケースだと免責されませんから、自分で支払わなくてはいけません。
同居人が悪いヤツだったら「自分でしっかり管理してください」ってことですね。
この彼氏があなたと同居していたのならいずれにしても免責されないので、あなたとしては結局付き合っている彼氏から返してもらうしかありません。
この様に一般的なクレジットカード約款からすると、あなたが責任を免れるためには警察への被害届等の提出が絶対条件です。
ですから、あなたがどうしても警察に届けたくないのであれば、30万円プラス利息をクレジット会社に自分で支払わなくてはいけないことになります。
そうすると今付き合っている彼氏からお金を回収しなくてはいけない。
だけど、結論から言うと、人のカードを勝手に使って30万円引き出すような人間から、警察沙汰にもせずにお金を回収することは、ほぼ不可能です。
そんな男と付き合う自分は人を見る目がなかった、バカだったと思うしかないですね。
でも30万円で済んでよかったですね。
何百万円も騙し取られる気の毒な人もいますから…それに比べたら安い勉強代です。
30万円を返してもらうのに弁護士費用を使うことは費用倒れです。
極く僅かな可能性を追求するなら、こういう場合は自分で勉強して少額訴訟を起こしてください。
こんな彼氏が調停を起こされたぐらいで「お金を払います」というとはとても思えないので、最寄りの簡易裁判所での少額訴訟しかないと思います。
少額訴訟は、素人でも簡単にできる手続きです。
これにより彼氏が裁判所からの呼び出し状にビックリして、返すかもしれない。
付き合っている彼女のお金は取るけど、「社会的にはまともな人に見られたい」という人であることが、絶対にないわけではない。
例えば、彼氏がちゃんとした会社に勤めている人であれば、少額訴訟で最終的に負けると給料が差し押さえられてしまいますし、出世にも響きます。
そうなったら困ると思って払うかもしれない。それが極く僅かな可能性ですね。
もし、仕事もしていない人だったら、返せるはずがないし、返す気もないし、守りたいような名誉もない。
そういう人は返しません。
何もない人は強いですよね。
そもそも、あなたの「警察沙汰にしない」という考え方自体が間違っていると私は思います。
本件は窃盗罪です。
犯罪を犯せば処罰されることをはっきり分からせないと、こういう人は直りません。
許してくれるだろうという甘えがあるから盗るんです。
自分の甘さから結局、逮捕・拘留されたという経験をすると「こんなつらい思いをするんだったら社会のルールに従って生きていった方がよっぽど得。」「犯罪は割に合わない。」と気づいて更生する人もいる。
さらに、「示談して処罰を免れたい」という動機が生まれるので、これが回収につながることもある。
きちんと悪いことは悪いとわからせるためには、警察に被害届を出し、場合によっては逮捕してもらって、刑事手続の厳しさを知らせることが必要です。
「こんなヤツと付き合っていたのかと思われるのはイヤ」だとか、「警察沙汰など面倒くさい」という気持ちは分かります。
しかし、それは単なる自己保身です。
それによって、この男はまた同じことを繰り返すことになる。
ですから、警察沙汰にしないのは決して正しい選択ではありません。
「時には厳しく」も必要です。
北村 晴男
弁護士(東京弁護士会)
■1956(昭和31年)年生まれ。長野県出身。
■1992(平成4)年に個人事務所を開設し、2003(平成15)年に法人化。生命保険、交通事故、医療過誤、破産管財事件、家事事件など多岐にわたる事件を処理している。
■弁護士法人 北村・加藤・佐野法律事務所代表。
■メルマガ「言いすぎか!! 弁護士北村晴男 本音を語る」(まぐまぐ!)配信中
この記事のキュレーター
出典:asatan