2019年11月16日
弁護士に相談するようなトラブルや問題なく暮らしたい。でも、何かあったときのために知っていて損はない! そんな身近で起こったお悩みに、テレビなどでも活躍している【北村晴男弁護士】が答えてくれた、身近なお悩みの解決法&アドバイスを紹介します。
結論的には、修繕費用を施工業者に請求することは、残念ながらできません。
本件で建物売買契約を締結したのは、買い主である相談者と売り主である不動産屋です。
そうすると、「10年以内だったら無料で補修をする」という契約上の義務を負うのは、契約当事者である不動産屋だけということになります。
民法の講義で言うと、「債権とは何か」ですが、債権は特定の人に対して請求できる権利で、契約によって発生する債権というのは契約の当事者しか拘束できません。
他方、「雨水による漏水」などの不具合は住宅を買ってからだいぶ経ってから発生することが多いので、「売ってから5年間のみ無料で補修に応じます」という契約条項を定めてもあまり意味がない。
そこで、使っているうちに不具合が生じてくるのはよくあることで、そういう劣悪な住宅を売ったり建てたりすることを防ぐため、10年以内に雨漏りの補修などが必要になった場合に、住宅の買い主や建て主を保護するための特別な法律があります。
それが住宅品質確保法で、例えば「5年経過後の雨漏りについては修繕義務を負いません」と契約書に書いてあったとしても、10年間は修繕義務を負わなければなりません。
これは、住宅を売った以上は(又は住宅を建てた以上は)責任をもって10年間は補修しなさいという意味で、これにより、10年以内は無料で修繕してもらえることになります。
ただ、このような義務も、住宅の買い主や建て主と直接契約を締結した「売り主」や「建築業者」しか負いません。
ですから、相談者と直接の契約関係にない工務店に対しては修繕を請求できませんし、修繕費の請求もできません。
この結論は、契約書の特記事項に「施工業者は○○工務店」と書かれていたとしても、まったく同じです。
その工務店が売り主側の連帯保証人として契約に入っていれば別ですが、そうでない限り、その工務店には請求できません。
我々は住宅を建てる場合には、一般に2つに1つで悩みます。
「経営基盤の弱い小さな工務店に注文して住宅を安く建て、その代わり将来住宅に雨漏りなどが発生した場合に、その工務店が事業を辞めていたとか倒産しており、無料補修をしてもらえなくなるというリスクを引き受けるか」、「経営基盤の安定した大きなハウスメーカーなどに高い値段で建ててもらい、その代わり10年間は無料で補修してもらう安心を選ぶか」、の2つに1つです。
もちろん一概に言えるわけではありませんが、注文住宅の建築費は、一般工務店に頼むよりも大手ハウスメーカーに頼んだ方が2〜3割は高くつきます。
というのは、大手ハウスメーカーはそのブランド力、信用力を活かして多くの注文を受けることができ、これを一般工務店に下請けに出して建ててもらうからです。
最終的には一般工務店が建てるのだから、消費者としては、大手メーカーを通さずに直接、町の工務店に頼めば、安く建てることができるので、その方が賢いように見えます。
しかし、その場合に一定のリスクを引き受けていることを、我々は知っていなければいけません。
大手住宅メーカーと一般工務店では、事業の継続性や倒産のリスクという点では大きな違いがあります。
一般工務店では後継者がいないから事業を辞めるとか、親方が怪我をして事業が続けられなくなるとか、取引先の倒産によって連鎖倒産するとか、そういう様々なリスクを抱えているのです。
すなわち、一般工務店に注文住宅の建築を任せるということは、雨漏りなどが生じていざ無料で修理してもらいたいと思った時に、修理してもらえないリスクが、大手住宅メーカーに比べると大きいということです。
逆に言うと、「今はお金が足りないので少しでも安く家を建てるために一般工務店に頼む。
ただ、将来のリスクがあることはわかっているので、一生懸命働いて、修繕に必要な積立をしながらその工務店の閉鎖や倒産に備える」という覚悟と備えがあるのであれば、その決断は賢い選択ということになります。
住宅を建てるというのは、大変高い出費を伴うもので、かつ、長く使うものだけに、長期的な視野で判断すべきものです。
ちょうど企業が工場を建設する際の経営判断と同じように、長期的なリスクとメリットを比較検討することが必要になります。
本件のご相談は、住宅を不動産屋から買ったという事案ですが、住宅を建てる場合とまったく同じように十分な検討が必要になります。
住宅は長く使えば雨漏りなどが生ずることがあり、売り主に対してならば10年間無料で補修請求することができます。
ということは、売り主が向こう10年間事業を継続できるのかどうか、倒産のリスクはどの程度あるのかを検討し、そこに不安があれば、「たとえ安くても買わない」という選択もあるし、逆に、事業廃止などのリスクを引き受けたうえで、それに見合った将来の修繕費に充てるための積立をしていくことにして、「とりあえず安く買う」という選択もあります。
ただ単に安いから買うとか、ただ単に見た目がいいから買うというのは、1着の洋服を買う場合ならそれもいいでしょうが、長く使ってその間には修繕なども当然必要になる住宅購入においては不適切です。
リスクを十分知って決断したのであれば、人は、たとえ損をした場合でも、悩んだり落ち込んだりしません。
ましてリスクに見合った備えをしていたならば、リスクが現実となっても当然のこととして受け入れることとなります。
そういう賢い消費者になりましょう。
なお、誤解のないように言いますと、私は大手住宅メーカーとは何の利害関係もありません。
北村 晴男
弁護士(東京弁護士会)
■1956(昭和31年)年生まれ。長野県出身。
■1992(平成4)年に個人事務所を開設し、2003(平成15)年に法人化。生命保険、交通事故、医療過誤、破産管財事件、家事事件など多岐にわたる事件を処理している。
■弁護士法人 北村・加藤・佐野法律事務所代表。
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この記事のキュレーター
出典:asatan