2019年11月09日
弁護士に相談するようなトラブルや問題なく暮らしたい。でも、何かあったときのために知っていて損はない! そんな身近で起こったお悩みに、テレビなどでも活躍している【北村晴男弁護士】が答えてくれた、身近なお悩みの解決法&アドバイスを紹介します。
これは町内会で費用を出して街路灯を設置したものと思いますが、旭川市のホームページを見ると街路灯設置補助金というものがあります。
街路灯を設置する場合、事前に補助金の交付申請をすれば、既設の電柱に設置する場合は22000円まで、新たに灯柱を設置する場合には46000円までの補助金が出るようです。
ですから本件は、もしかしたら市から補助金が支払われているのかもしれません。
街路灯は何のために付けるかというと、「夜間の犯罪や事故を未然に防止」し、「安全・安心の町」をつくるためです。
その街路灯のすぐ近くに住む人だけでなく、そこを夜間に通る可能性のある人みんながその恩恵を被るわけです。
そうすると、街路灯の設置は大変公共性のある事業ということができます。
これに対し苦情を申し立てている人は、「光害になる」と言っています。
今すぐ取り外せと。この人にとっては「眩しくてイヤだ」「こんなところに住みたくない」ということなのでしょうが、街路灯はその人も含めて、そこを夜間に歩く可能性のあるすべての人にとって、「夜間の犯罪や事故を未然に防ぐ」という大変有意義なものであることは間違いありません。
もちろん、「真っ暗な中で生活したい」、「星がきれいに見えるところで生活をしたい」という思いの方がおられることは理解していますが、個人のそういう価値観がすべてに優先する、とは言えません。
本件は、いわば夜真っ暗なところで生活をしたいという人と、夜道路だけはせめて明るくあって欲しいと考える多くの人たちとの、価値観というか利害がぶつかり合う場面なんですね。
そうすると、その利害を調整する必要があります。
夜明るい方が犯罪も起きにくいし事故も起きにくい。
これは明らかですね。
他方で「光害」というのは具体的に何を指しているのか、その方の言い分を聞かないと正確には分りませんが、部屋の中で眩しいというのであれば、自らカーテンを付けるなどして簡単に自分の利益を守れます。
大した費用も掛かりません。
他方で外を歩く人たちはより安全に生活できます。
それだけで利害調整ができる。
その場合にカーテンの費用をまわりの人たちが負担する必要は原則としてない。
個人的な欲求なので自分でカーテンを設置すればそれで公平だと思います。
次に、光が自分の敷地内に入るのがどうしてもイヤなんだということであれば、やや高い塀を作るとかして、一定の範囲ではなんとか解決できそうですね。
それでも、どうしてもいやだとおっしゃる場合に、ひとつのキーワードが受忍限度(じゅにんげんど)という考え方です。
どうしても利害がぶつかり合う場合には、「眩しくてつらい」という件が普通の人にとって、とても耐えられない事なのか、それとも受忍限度範囲内なのか。
つまりその位は我慢できることなのか、という一般的な基準で考えるほかありません。
例えば、「どうしても暗いところで星を見たい」というだけであれば暗いところに出掛けて行けば星は見えますよね、恐らく旭川なら簡単なのでは? わざわざ家から見なきゃいけないという、その必要は少ない。
そのくらいの不利益…、つまり家の中や庭から星明かりが見られたのに、街灯が出来たことによって眩しくて見られなくなった、というのであれば、暗い公園や山に行って見てください、という話です。
そんなところに出掛けて行くのはつらいと仰るのであれば、「そのくらいは受忍限度の範囲内でしょ」となる可能性が高いです。
「今すぐ取り外せ」という要求に従って取り外すことによって発生する不利益はかなり大きいと思われます。
道路が安全でなくなりますよね。
夜間の犯罪と言えば痴漢とかストーカーとか強盗、誘拐などいろいろ考えられますが、それらを発生しにくくするという意味で非常に有益なのが街路灯です。
撤去することによる不利益があまりにも大きいと思われ、さっき申し上げたような検討をしてみると、どうもこれは認められない可能性が高いです。
以上のとおり、そもそも撤去することを前提に考えられているようですが撤去などする必要がないということになりそうです。
万が一、町内会で「いやいや暗いところの方がいいんだ、夜は暗いところで生活をしましょう」というみなさんのコンセンサスができて、「街路灯を撤去しよう」という話になったとします。
その場合には街路灯を設置するにあたって、そのキッカケを与えたのが、この相談者の方であったとしても、そもそもここに街路灯を設置しようと決めたのは町内会です。
であれば、町内会の責任において設置したわけですから、仮に撤去するとなったとしても相談者が費用を払わなければならない道理はどこにもないということになります。
ですから仮に撤去することになったとしても、相談者は費用を支払う必要はありません。
万一、町内会がそういう要求をしてきたら、断固拒否しましょう。
1つ付け加えると、街路灯に隣接した住人には「何も聞かされずに勝手に設置された」という不満があるのかも知れません。
確かに設置する場所については、ほかの街路灯との位置関係などから、必ずしもここに設置しなきゃいけないとまでは言えないかもしれません。
こういう考えの方がいるのだったら、そこから少し離れた位置に付けるということも十分に考えられたわけで、そうすればこういうトラブルは発生しなかったと言えなくもない。
そうすると町内会が街路灯を設置しようと決めるにあたっての手続きに若干、ほんの少しだけ難があったという可能性はあります。
街路灯を設置しましょう、どこどこにいつ設置しましょうということになれば、それを事前にお知らせする…。
回覧板などでお知らせをして、みなさんが納得して、後々文句が出にくい方法で決定するという手続きは踏んだ方がより良いかもしれませんね。
ただ、本件では、そういうことを尽くしていたのかもしれない。
たまたまその人が回覧板を読んでいなかったという可能性ももちろんあります。
そういう手続きを踏んでいなくて、自分の敷地の目の前じゃなくて10m離れていれば一切文句を言わなかったという可能性もあります。
もしそうであれば1つの妥協的な解決としては、ただ単に撤去するのではなくて、みなさんの調整がつけば道の反対側に移すと決めて、その移す費用は例えば町内会で出すとか、あるいは苦情を言っている人が半分出すとか、そういう調整をして解決するというのも1つの方法ですよね。
ただ、その場合にも少なくとも、この相談者の方が単独で払わなきゃいけないとか半分払わなきゃいけないとか、そういうことはあり得ないでしょう。
あくまでも町内会の責任でもって決定したことですから。
北村 晴男
弁護士(東京弁護士会)
■1956(昭和31年)年生まれ。長野県出身。
■1992(平成4)年に個人事務所を開設し、2003(平成15)年に法人化。生命保険、交通事故、医療過誤、破産管財事件、家事事件など多岐にわたる事件を処理している。
■弁護士法人 北村・加藤・佐野法律事務所代表。
■メルマガ「言いすぎか!! 弁護士北村晴男 本音を語る」(まぐまぐ!)配信中
この記事のキュレーター
出典:asatan