2019年12月20日

【身近なお悩み法律相談】お客様の未払い分の飲食代、回収する方法は?

弁護士に相談するようなトラブルや問題なく暮らしたい。でも、何かあったときのために知っていて損はない! そんな身近で起こったお悩みに、テレビなどでも活躍している【北村晴男弁護士】が答えてくれた、身近なお悩みの解決法&アドバイスを紹介します。


常連客がツケを払わない…催促しても居留守で…

バーを経営しているのですが、2年前から週1で来店されていたお客様のツケを回収できずに困っています。

来店始めの頃は、金払いが良く会社の部下らしき方やお友だちなどといらしても、その方が奢っていたりしていました。

ところが、1年ほど前に御一人でいらした時に「今、現金の持ち合わせがないから次に来た時にまとめ払いでいい?」と聞かれて了承しました。

その時は、すぐ後日来店いただいた時に支払って頂けたのですが、それをきっかけにツケで飲まれることが多くなりました。

未払いが5万円を超えた時に、口頭でしたが支払って頂けるよう催促をしたのですが、のらりくらりの返事をされ、10万円を超えた時から店に来なくなりました。

携帯電話に連絡しても留守電になり、会社に電話してみても居留守を使われます。

いつ来店されていくら使われたかなどを書きとめた手帳はありますが、今まで請求書を出したことがありません。

こんな状況ですが未払い分の飲食代を回収する方法があったら教えてください。
(46歳/IWパパ)

時効の期間をしっかり確認する事が重要

相談者は、飲食費に関する債権をお持ちですね。

この債権は、これまでは民法174条によって1年の短期消滅時効にかかるものとされていました。

しかし民法が改正され、どの債権も一律に5年で消滅時効にかかることになりました。

ただし、この5年の時効期間が適用されるのは改正民法の施行日である2020年4月1日以降に発生した債権です。

ご相談の債権はそれ以前に発生していますので、消滅時効期間はこれまで通り1年です。

この未払いになった分の飲食をいつしたのかがハッキリしませんが、1年以内であればまだ時効が完成していない、1年を経過していれば原則として時効が完成しているということになります。

なお、時効という制度は、時効期間が経過すると自動的に債権が消滅するのではなく、債務者側が時効完成後に、「時効を援用します」と主張してはじめて消滅するものです。

他方、仮に1年が経過していたとしても、その間にこの債務者が…、つまりこのお客さんが「確かに自分はそういう未払いがあります。

だけど、今ちょっと手持ちがないから待ってください」などと言ったとすれば、それは「債務の承認」といって時効中断事由になります。

もし、そういう事実があれば、再びその日から時効期間がスタートすることになり、そこから1年経過してはじめて時効が完成します。

他方、時効が完成した後にこのお客さんが債務があることを認めた場合には、「時効完成後の債務承認」といって「信義則上時効を主張できない」とされています。

それ以外の時効中断事由とされているものに「催告」があります。これは「請求」のことですが、一般に誤解されているところがあります。

請求さえしていれば、つまり、払ってくださいと言い続けていれば時効が中断されると思っている方がおられますが、これは間違いです。

裁判外で請求した場合、その日から6ヵ月間は時効の完成が猶予されるに過ぎません。

その猶予期間内(6ヵ月以内)に訴訟を起こすなどの法的手続きを取れば、それでようやく時効が中断します。

単に請求だけをくり返して、相手も払わず、6ヵ月が経過してしまい、その後、時効期間が到来すれば時効が完成してしまいます。

これは誤解が多いので気を付けてください。

明確に相手に対して請求する

具体的に言うと、本件で、例えば11ヵ月経過した債権があるとします。

このお客さんが飲み食いした日から11ヵ月経過しているという意味です。

すると、今すぐに時効の完成を猶予させるために、請求をする必要があります。

請求というのは、相手に面と向かって「払ってください」と言えば、これで請求になりますし(但し、あとで「聞いてないよ」と言われて、請求した事実を証明できなくなることがあるので、内容証明郵便で請求することをおすすめします。)、このお客さんの自宅などに書面を出し、このお客さんに到達すれば6ヵ月間は時効の完成が猶予されます。

だからその日から6ヵ月以内に裁判上の手続きを取れば時効中断ということになります。

少額訴訟で無駄な出費をおさえる

本件では、〝10万円を超えた時から店に来なくなりました〟ということですから、10万円をちょっと超える金額の債権が残っていると思われます。

こういうケースでは、弁護士に依頼すると費用倒れになる可能性が極めて高いです。

仮に、弁護士が着手金5万円の費用で受けてくれたとしても、こういう相手ですから、結果、このあと会社も辞めてしまいました、どっかに行っちゃいました、だから1円も回収できません、ということもあり得る。

となれば、この着手金の5万円は無駄になります。

なので、これは自分でやるしかありません。

そうすると、前にもお話をしたと思いますが、こういうケースは、簡易裁判所に少額訴訟を起こすのが1番適切だと思います。

そうすれば簡易裁判所から相手方の住所に訴状が送られます。

誰でも、頑張れば10万円ちょっとのお金は何とかなるケースが多いですよね。

それまでは相手を甘くみて「踏み倒せばいいや」と思ってきた人だったら「裁判手続きを起こしたならしょうがない、払う」となることがあります。

簡易裁判所を利用する手段も

加えて、その会社にまだ勤めているとすれば、判決が出たのに払わなければ給料を差し押さえられますので、払った方が自分のためになる。

というのは給料を差し押さえられたら当然回収されてしまう上に、会社との間でもみっともないことになります。

短気な社長だったら「もうクビだ」って言われかねないですよね。

給料を差し押さえられただけでクビにすることは法的にはできませんが、実際にクビを宣告されて、「いやいやクビになんてできませんよ」と争うのも、なかなか根性がいります。

という訳で、事実上大きな不利益になる可能性があるので少額事件訴訟手続きを起こされたら、あっさり払うかもしれないということです。

それ以外としては簡易裁判所に調停を起こすことも考えられます。

簡易裁判所の調停というのは民事調停と言います。

こういう少額な債権を持っている、だけど払ってくれないというようなケースで申し立てをすれば、調停委員が相手を説得してくれます。

「このくらい飲み食いしたんだったら、いろいろ事情はあるのかもしれないけど、払ったらどうですか。払わなければ仮に訴訟を起こされたら負けますよ」と話をしてくれます。

それが回収に繋がる可能性があります。

ただし、以上申し上げたのは相手の住所や勤め先がわかっているということが前提です。

住所もわかりません、元の勤め先ももう辞めてしまいました、ということになると、ちょっと打つ手はありません。

店側もリスクを想定して行動する事が大事

ツケで飲ませるということは、「未払いになる」「回収できない」というリスクを負ってお客さんにサービスするということです。

商売として考えたら、「融通の利く店」と思われ、その分お客さんが増えて売り上げが上がるというメリットの方が大きい。

未払いが発生するデメリットの方がより少ないと経営判断をされたのでしょうから、最終的に、この人が逃げてしまいました、回収できませんというのは、まぁ自らの経営方針が招いたこととも言えますね。

また〝今まで請求書を出したことがありません〟とありますが、確かに「その人が店で飲み食いしました」と証明する時に請求書の控えがあれば、証明しやすいです。

しかし請求書の控えがないから嘘だと裁判所が決めてかかるわけではありません。

相手が「そんなところで飲んだこともないよ」と白を切った場合には、請求書がないことは不利に働くことはあるでしょう。「請求書ぐらいは普通出すでしょ」と。

まして、〝会社に電話をしたり、携帯電話に連絡しました〟というだけで請求書を1度も発行していないというのは、実際疑問を持つ事情ではあります。

ただ、相手が少額事件訴訟手続きで「確かに飲みましたよ」と言えば、「飲食代金が発生したこと」については争いがないことになりますから、それについては証拠も不要となります。

ただ、未払いが発生したら、請求書くらいは出した方がいいですよ、面倒臭がらずに。

北村 晴男
弁護士(東京弁護士会)
■1956(昭和31年)年生まれ。長野県出身。
■1992(平成4)年に個人事務所を開設し、2003(平成15)年に法人化。生命保険、交通事故、医療過誤、破産管財事件、家事事件など多岐にわたる事件を処理している。
■弁護士法人 北村・加藤・佐野法律事務所代表。
■メルマガ「言いすぎか!! 弁護士北村晴男 本音を語る」(まぐまぐ!)配信中

出典:asatan

 

この記事のキュレーター

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