障害を持つ人が創造する物や音に、時折驚かされることがあります。
ただ、それはテレビ番組を見ていてのことが多く、こんなに身近に障害を持ちながら絵の才能がある人がいるとは思いもよりませんでした。
今から2年ほど前。
車・建物・山などが一直線上に幾重にもなって描かれた街並み。
車のタイヤやドア、建物にはいくつもの窓、たくさんの月や星など、一つひとつが小さく、気が遠くなりそうなほど細やかな絵を新聞紙大の紙に書いていたのが青山雄一さんでした。
2019年11月09日
車体にボディペインティングされた【みつばちタクシー】が旭川市内を走っているのを、みなさんは知っていますか? 作者は、タクシーと絵を描くことが好きな青山雄一さん。本物のタクシーの車体に絵を描いてみたい--彼の夢が実現しました。そこで、青山雄一さんの夢までの道のりをご紹介します。
障害を持つ人が創造する物や音に、時折驚かされることがあります。
ただ、それはテレビ番組を見ていてのことが多く、こんなに身近に障害を持ちながら絵の才能がある人がいるとは思いもよりませんでした。
今から2年ほど前。
車・建物・山などが一直線上に幾重にもなって描かれた街並み。
車のタイヤやドア、建物にはいくつもの窓、たくさんの月や星など、一つひとつが小さく、気が遠くなりそうなほど細やかな絵を新聞紙大の紙に書いていたのが青山雄一さんでした。
雄一さんは、小学校の頃に自閉傾向にと言われ、その後自閉症スペクトラムと診断されました。
「小さいときから手先は器用な子だったけど…」と母親の弥生さん。
幼いころの雄一さんは、「今のように絵を描くことはなかった」と話す。
ところが、現在も通所している障害者福祉サービス『ゆい・ゆい本舗』(上川郡東神楽町ひじり野北1条3丁目1-3)での美術支援の一つとして行なわれた〈絵を書く〉という作業が雄一さんにマッチ。
集中して何時間も描くこともあれば、まったく描かない日もある。
「これを描いて、あれを描いて」も彼には通用しません。
何を書きたい、上手に書きたい…そんな考えは彼にはありません。
その時その瞬間に描きたい絵を描く
それが雄一さんです。
下書きを一切せずにフリーハンドで一筆書きのように描き出す絵には、大好きなタクシーが必ず描かれていた。
旭川市内のタクシー会社名とデザインを、すべて覚えていて、所々に散りばめています。
札幌を中心に活動している社会貢献活動団体Earth Art Project1000@sapporoが、雄一さんの絵にいち早く注目し、缶バッヂを制作して支援をスタート。
それと前後するように、ラジコンのボディに絵を描くことを雄一さんは始めました。
黒いペンだけでの絵に、少しずつ色がプラスされ、車や旭川の街並み、自然の景色が次第にカラフルな絵になっていった。
手のひらサイズのラジコンでの遊びを提供しているRC222(アールシーミニッツ)開催のイベントでは、雄一さんがボディに絵を描いたラジコンカーが走るAOYAMA CUPが行なわれたほど。
雄一さんがボディに絵を描いたラジコンカーが大会などに参加するようになったことで、模型メーカーのKYOSHOの目に留まり、オンラインでの販売後、2018年には、ラジコンカーの全国的な大会の会場に雄一さんの作品を展示する特設展示ブースが設けられました。
今、雄一さんはミニッツホワイトボディ アーティストと呼ばれています。
京商2017.2018カタログに掲載され、ラジコンユーザーに広く知られるきっかけとなった作品。
今年6月。
雄一さんの「タクシーに絵を描いてみたい」という夢が人から人へと伝わり、みつばちタクシーの岸政充社長の耳にも届くこととなり、実際に走行しているタクシーのボディに絵を描くことが決まりました。
『ゆい・ゆい本舗』を運営するNPO法人『ゆい・ゆい』の理事長 野々村雅人さんは、ずーっと雄一さんの絵を見てきた人のひとり。
「本物のタクシーに絵を描かせてあげるのは、正直難しいと思っていました」と言いつつも、プロジェクトを立ち上げ、様々なところに働きがけをしていた。
今まで20cm前後のラジコンのボディに絵を描いていた雄一さん。
何十倍もの大きさの実車ボディに絵を描けるのか!?
でも夢を実現させてあげたい!
野々村理事長は葛藤を繰り返しながら、事業所の仲間や協力者たちと『雄一さんの夢を叶えたい』との一心で、練習用の廃車を提供してくれる業者探しに走り、車のボディに描く適正なペン探しと奮闘した。
雄一さんもまた、大きく、そして立体的になるキャンバスに対応すべく、細いペンを太いペンに持ち替え、細く描いていた線を太く、小さく書いていた絵を少しずつ大きく描けるようになっていった。
提供してもらった廃車に描いたもの。『ゆい・ゆい本舗』の駐車場に提示しています
今年10月初旬。
雄一さんが実車に描き始めた。
書き出して2日目
ペン入れはフロント。それから左サイド→リア→右サイド。
描き始めた雄一さんのペンには迷いや戸惑いはなく、2週間ほどで描き上げた。
黄色い車体に、みつばちタクシー・旭橋・ラーメン店・太陽・草花・みつばちがカラフルに描かれている。
旭橋の欄干の上を走るタクシー。夢が叶った雄一さんのワクワクとした楽しい気持ちが表れているかのよう
そして最後に、実車を提供したみつばちタクシー岸社長のリクエスト【青山雄一×みつばちタクシー 夢をのせた車】の文字を書き、完成した。
【夢をのせた車】は、11月2日(土)~5日(火)までの4日間、アッシュアトリウムに展示・公開されました。
初日に会場に訪れ、出来上がりを初めて見たみつばちタクシーの岸社長。
「ビックリです。こんなにポップでかわいいものができあがるとは想像していませんでした」と話し、「この車が市内を走ることを想像するとワクワクしますね♪」と完成を喜んでいた。
雄一さんとみつばちタクシー岸社長
そして、11月7日(木)。
たくさんの人の協力を得て、雄一さんの夢のタクシーが旭川市内を走り出した。
2017年asatan本誌の1月号で雄一さんを紹介した。
その記事の文末に、タクシー会社の関係者の方が見てくれないかなとの願いを込め、こんな一文を入れた。
「個人的には、タクシーの絵がたくさん描かれたボディのタクシーが、旭川市内を走るところを見たいと思う」。
雄一さんは、私の夢も叶えてくれました。
【夢をのせた車】は、雪が降り出した今も旭川市内を走っています。
実車を見たい、乗ってみたいと思ったら、みつばちタクシーに電話して18号車と伝えてみてください。
雄一さんの夢と一緒に、アナタの夢も実現へと誘ってくれるかもしれませんよ。
この記事のキュレーター
凸版・写植、手書き原稿のアナログの時代から、なんだかんだと記事を書くお仕事に就いて30ん年。「自分の年、四捨五入したことある?ヤバイよね」と友人に言われ、彼女より1つ年下だと主張したところでヤバイお年頃には変わりなく…
すっかりグイレヘアになったのに、未だに髪色に合うファッションを模索中!
2017年12月に開催された『AOYAMA CUP』。