2021年05月22日
地酒蔵のあるまち旭川。四季折々の酒が薫ります。今頃ならば、夏の味覚にも合うすっきりした夏酒が愛飲家の注目アイテム。ということで、今回はいずれも夏季限定発売、2社2本のレヴューをお届け致します。
先月発売されたこの酒。その熟成方法が実に興味深いのです。冬期間、搾りたての新酒をタンクごと雪で覆い貯蔵し春までゆっくりと熟成させるというもので、これを「雪中貯蔵」といいます。
覆った雪によりタンク全体をマイナス2℃前後の一定温度に保つと熟成環境が安定し、搾りたてのやや荒々しい酒質がまろやかになるんだそう。
酒造りにおいては必ずしもこうしなければならないという工程ではありませんが、雪国の酒造りとして何ともドラマチックなエピソード。こうして作り手の思いが伝わると酒の美味しさがよりふくよかに感じますよね。
埋設された酒は2種類。
1基は今回紹介となった道産酒米「彗星」による純米酒。もう1基は道産酒米「吟風」による純米吟醸酒で、6月より通年発売の予定。
なにげに果実を思わせる香りは、ほんのりとごく穏やか。口にふくんでみれば、まろやかな酸味、そして旨みがじわりと舌に伝わってきます。軽やかにフルーティーな甘さもあります。しかも、それら香味はまとまりがよく、まろやかな熟成感を演出。
熟成というと「濃い」とか「まったり」といった酒質をイメージしがちですが、この酒は違います。すっと飲める口当たりの良さがあります。後味もすっきり。食事と一緒に楽しめそう。
ところで、筆者も毎年これを頂いていますが、年々美味しくなっているような感じが。
そう思うのは筆者だけでしょうか。
■ 純米酒 大雪 雪中貯蔵
【価格】720ml:1,375円/税込(数量限定)
【販売先】酒類販売店、および同社直売所(旭川市宮下通17丁目)
下のオンラインショップでも入手できます
厳寒期に仕込まれ、生(加熱殺菌をしていない)で瓶詰め、貯蔵されたものが、この5月に出荷されました。
飲食店でも人気、筆者も毎年楽しみにしている酒をさっそく味わってみます。
買った直後は、ビンの底には、おり(素材の沈殿物)が少したまっています。といっても、品質に問題ありというものではなく、これが「笹おり」たる由縁。ビンをゆるゆると回転させるなりして溶かすと、うっすらと美しい霞状の酒を愛でることが出来ます。また、1杯目はおりを溶かさず透明な上澄みを味わう、2杯目はおりを溶かして風味の違いを確かめるという飲み方も面白いと思います。
そうそう、笹おり(ささおり)という名前。気になってる方もいますよね。名前の由来はちょっと長くなるので、のちほど。
ほんのりと甘酸っぱい香り。飲み口はさらりと、初めの香りもそのままに酸味と旨味に口の中が潤います。生酒らしい瑞々しさがありながら、旨味に関しては、一本筋が通ったような確かにあり、かつその質感は端正。
きき酒師が語るとそんな表現になってしまいますが、すっきりと呑みやすく酒の香味も確か。そんな酒です。
日本酒の香味が苦手と誤解されている方がいたなら、今一度こんな酒を試してみたらいいのに、と思いました。
何しろ、料理と一緒に楽しめるタイプなので、親しみやすいです。
蔵人の隠し酒の異名を持つこの1本。
笹(ささ)とは古来からある酒の呼び名。時代劇で、殿様が召し使いに向かって「ささを持て」って言ってシーン、見たことありませんか。そして、おりは簡単にいえば酒の中の沈殿物のこと。
酒造りでは、発酵の進んだもろみ(簡単に言うと米と麹による清酒の原料・白くてどろどろ)から酒を取り出すためにろ過し桶(今はタンク)に入れます。時間が経つと上は澄んだ清酒(笹)となり、下にはおりが溜まる訳ですが、その中間のかすみ状の部分にこそ香り高くコクがあると、蔵人がこれを「笹おり」と呼び珍重したそうです。
その味をそのまま伝えようと商品化されたのがこの酒です。
■笹おり
【価格】500ml:1,043円/税込
【販売先】酒類販売店および同社酒造り資料館売店(旭川市永山2条7丁目)
下のオンラインショップでも入手できます
今回の酒は、どちらも料理にあうこと請け合い。
料理を美味しくする、料理によって酒も美味しく感じる、そんな相性があると思います。
記事作成のためのテイスティングに用意したツマミはホタテの刺身。
テイスティングと言ったって、晩酌です。いつでも酒は旨いツマミとともに楽しむのが我が流儀。
刺身なら醤油とわさび、というのが一般的ですが、おすすめの食べ方がカルパッチョ。
醤油(さらにわさびまで)だと、今回の酒の軽やかな酒質に対して味が濃すぎるからです(酒の味が分からなくなる)。
なので、オリーブオイル(EV)と軽く塩と黒コショウで味付け。あとは好みでディルなどの香草やピンクペッパーなどを。ホタテに限らず貝類、白身の刺身に有効です。
酒をより引き立て、同時にホタテがより美味しく感じられると思います。お試しあれ。
この記事のキュレーター
出典:高砂酒造
タンクは昨12月下旬、美瑛町美馬牛の丘陵に埋設されました。写真は3月下旬、それを掘り出している様子です