2021年12月16日
鉄道ファンも必見。映画好きに加え鉄道好きという筆者が特に愛して止まない作品の、ロケ地となった駅をご紹介。名優が演じたホームに立てば、名シーンがよみがえるのでした。
1999年公開。鉄道員(ぽっぽや)として愚直なまでに鉄道一筋で働き続けるも、定年間近を孤独に過ごす男の生き様を描いたドラマ。
年の瀬に起こった不思議な出来事が見どころ。
国鉄民営化、ローカル戦廃止、相次ぐ炭鉱の廃坑など、当時の社会問題がそのままストーリーの土台になっていて、今観ても、そんな時の流れが感慨深い。
劇中登場するのが「幌舞駅」。架空の名称だが、南富良野町に実在する「幾寅駅」および周辺の建物を使い撮影が行われた。
約20年前、南富良野の小さな駅が、映画によって一躍有名に。駅舎および周辺はテーマパークのようになった。
映画好きなのか、主演の高倉健さんを偲んでか、ぽつぽつとではあるが切れ間なく来場者が訪れている。
駅の向かい側には実在しつつロケにも使われた食堂や理容院も。
しかし、今はどれも空き家状態になっている。
では、駅舎を見てみよう。
駅名は「幌舞駅」のまま残されている。
建物は古い風合いを維持しながら割ときれいに手入れされているようだ。
で、駅舎の内部を見なきゃ損。
中は、無人駅ながらとてもきれいだ。
それもそのはず、駅舎は展示施設でもあるので町がきっちり手を入れているのだろう。
かつて駅員がいた頃の執務室は現在、映画の記念展示コーナーに。
向かって左から入る。
あれやこれや。映画会社から譲り受けたと思われる小道具なんかもあって、けっこうおもしろい。
健さんはもちろん、奥さん役の大竹しのぶさん、親友役の小林稔二さん、あっ、亡き志村けんさんも。いい役者だったんだなと改めて思う。
また、広末涼子ちゃんもマジ可愛い。やっぱ若い頃から逸材だったんだな。
はい、次はホームに出ますよ。
ホームは改札口を出て、階段を上がる少し高い位置にある。駅としては珍しい地形かも。
プラットホーム。いかにもローカル駅らしい1面1線の単式ホームだ。
映画では、当駅は終着駅という設定になっていて、車止め(列車はそれ以上先に行けないよ的なもの)が置いてあったはず。
ホームの上にあるのは、ホームに列車を着けた運転手がホーム後方を確認するための、いわゆるバックミラーなんだが、これ、ジャマくさいから、筆者がフォトショで消してみよう。
すると目に焼きついたあのシーンがよみがえるのだ。
下の画像をご覧あれ。
さっき展示コーナーにあった1枚。
自分、健さんと同じところに立ったよ!とついミーハーになってしまう瞬間。
しかしここに立つと、駅長の声や笛の音、妻(大竹しのぶさん)の表情が思い浮かび、胸が熱くなる。
また、健さんの左側にあるのは昔懐かしい「椀木式信号機」なのだが・・・
ホームの向こうにちゃんとある。ロケの実物かどうか分からないが、ともかくウレシイ(笑)
ところで、線路に雑草が生えていたりしているが、ひょっとして廃線?
という訳ではないが、今は列車の往来はない。2016年の台風による災害で、当駅を含む新得駅(新得町)~東鹿越駅(南富良野町)間は普通。代行バスが運行中となっている。キハ40を見たいんだがな。ほんとにこのまま廃線になったりして。
さて、再び駅の外へ。
ディーゼル気動車が輪切りに!という圧巻の展示。
これはJRが工場で、キハ40系(昭和40年代の車両)を映画の時代設定に見合うキハ12に改造したもの。キハ12は昭和30年代から実際に走っていたもので、それなりに古さを出すために改造車両は東映の美術担当者が経年を演出する「汚し」処理を施したとか。
展示車両は多分展示に合わせて再塗装を施したようで、細かな部品が塗料で塗り固められている(実際に走る車両にはそんなことはしない)のが、キハ40好きとしてはちょっと残念だが、車両自体の保存状態は非常に良い。
運転席
ネタばれになっちゃうとアレなんで、詳しくは言わないが、ラスト、小林稔二さんがここに乗り込みキハ12を走らせるシーンは、涙もの。
広末涼子ちゃんとのファンタジーなシーンに使われたトイレ。
トイレでファンタジーって(笑)
志村けんさんの名優ぶりが光った食堂のシーンはここで。
根室本線幾寅駅
住所:空知郡南富良野町字幾寅
駐車場:表示はないが駅前に駐車可
1981年公開。脚本家・倉本聰さんが高倉健さんのために書いたとされる作品。
ひとりの刑事の生き様を、妻・容疑者の妹・居酒屋の女将という3人の女性との関わりとともに描いた人間ドラマ。タイトル「駅」の通り、道内実在の駅がドラマの舞台となっているのも鉄としては多いに見どころだ。
ロケ地という点では札幌駅、砂川駅、留萌駅もこれにあたるが、今回は増毛駅を訪問。
健さん演じる英二が愛を交わした女性への思いを押し殺して町を立ち去る、そこが増毛駅だ。
また、出会いなど待合室などちらほらと登場する駅舎。
ではあるが、5年前、JR留萌本線の留萌駅〜増毛駅間が廃止され「増毛駅」が廃駅となったその後、駅舎は再利用のため大がかりに改築され、昔の雰囲気はかなりなくなってしまった。
駅舎内は地元企業が出店し、けっこう賑わっている。まあ、駅舎がなくなるよりは有難い話である。ちなみに、ここで買える物はけっこう美味しい。
次の舞台は駅前の風待食堂へ。
夏期は町の観光情報センターを兼ねるこの建物。劇中では、まちのチンピラを演じる宇崎竜童さんが、仲間とともにバイクで店の前にたむろした場所だ。また、すず子(烏丸せつこさん)が働いていた食堂がここ。
ちなみに、向かって左側の三角屋根の建物は、これまたマチの歴史的建造物、旧「旅館富田屋」。夏目雅子主演映画「魚影の群れ」のロケなのだ。増毛町ってなんかスゴイ。
ともかくは、内部が圧巻。中を見ずして通り過ぎるなかれ。
内には、観光情報センターの方がお一人いて、簡単なお土産を売る場が少しと大部分は映画の資料館になっている。
壁には映画に関するパネル展示が盛りだくさん。
ああ、いいシーンだったねというのが、居酒屋「桐子」で健さんと倍賞千恵子さん(桐子)の逢瀬。
名優二人が織りなす心模様の舞台となった、居酒屋「桐子」の店内。
で、驚きなのが、このセットが丸ごとこの建物の中に!というとんでもない展示だ。
映画好きにはたまらない。
増毛駅が廃駅となったおかげで、いや、おかげというのはちょっと不謹慎な言い方だが、廃駅によりまちの行く末が案じられる地域のための、国の地方創生加速化交付金を増毛町は活用。劇中の舞台、居酒屋「 桐子」のスタジオセットをここ、観光情報センターに復元・設置しているのだ。
映画ファンには災い転じて何とやら、でしょうか。
前掲のスチール写真と同じようなアングルで撮ってみた。
ふたりの何気ない会話が聞こえてきそう。
たしか年末。テレビは紅白歌合戦。八代亜紀が「舟歌」を唄っていた。
駅舎では映画のイメージが少し遠のいた感もあったが、このセットを見てもう大満足。
お腹一杯になった(笑)感もあるが、映画に関する場所をもうひとつ。
地酒蔵「國稀酒造」。ここでも映画に関する展示が盛りだくさん。
店員さんに撮影許可を求めると、上がっていいよと言われて撮影。
座敷には「駅 STATION」や「魚影の群れ」の資料がずらり。
実はこの建物内部でも「駅 STATION」の撮影が行われている。
健さんが雄冬の生家に帰郷した時、家の階段下で別れた妻に電話をするシーン。それに使われたのが國稀酒造の階段なのだ。
何かもう、映画を回想するつもりが、次第に健さんを偲ぶような気になっている筆者なのであった。
旧増毛駅
住所:増毛郡増毛町弁天町1丁目
国稀酒造
住所:増毛郡増毛町稲葉町1丁目
営業時間:9:00~17:00
定休日:不定休
駐車場:あり
もう1本。銀幕ではないけれど、今回の話に欠かせない駅をご紹介。
同作は1999年放映。北海道の明日萌駅に捨てられるも駅長に拾われ成長したヒロイン萌の波乱万丈の人生を描いたドラマ。時代設定は大正末期から平成。萌が育ち、やがて旅立つまで過ごした明日萌(あしもい)の、主要なロケ地がJR北海道留萌本線の恵比島駅だ。明日萌駅はドラマの中の架空の駅名で、駅および地域は実在はしない。
これまた圧巻。
右から明日萌駅、駅長官舎、馬小屋、さらに右に大きく写ってる電柱まで、すべて撮影のためのセット。
これらを含め、見事に再現された大正・昭和初期の駅前通りの雪降るシーンは実に印象的であった。
さらには蒸気機関車を実際に走らせた(線路は実在する留萌本線)、さすがNHKさんのやることはケタが違う。
駅舎
さすが昭和初期。「明日萌駅」の文字の向きが現代とは逆。駅の字も旧字だ。
駅長官舎
いわゆる駅長の住居だ。撮影は外側だけで、室内のシーンはスタジオだったらしい。
駅前広場から道路をはさんだ先にあるのが、劇中、中村旅館として登場した「旧黒瀬旅館」は現存。
ロケ当時は向こうの空き地とその向かいにもセットとしての建物があった(解体された)。駅、そして駅前の街並みを再造ってしまうとは、ロケがいかに大がかりだったか想像に難しくない。
では、話を駅舎に戻そう。
外から内部を撮影させてもらった。
内部は、待合室から執務室に渡るまできれいに保存されている。
しかもシーンを再現するかのようにマネキンまで。
そう、当地沼田町がセットを観光施設として展示しているのだ(町当局に依頼すれば入館可)。
待合室。向こう側は切符売り場の窓口かな。
窓口の上に運賃表。
あ、旭川まで「賃金八○」って書いてある。昔だから80銭かな。
NHKだから時代考証もきっと確かだろう。
とか、興味津々。
ストーブがちょっと邪魔だけど、主人公「萌」の、お馴染みのカットも再現されている。
実際に、その先に列車が停車するのだが、列車から事情を知らないでこれを見たら、けっこうビックリである。
駅舎ホーム側。セットとしての「いもしあ(あしもい)」と実際の駅名「えびしま」が混在する、事情を知らなかったら何のこっちゃ?な風景(笑)
改札口。駅名とポスターはセットではない。
観光PRという事情は分かるが、なるべくなら原風景を見たい筆者なのだった(幾寅駅の「ようこそ幌舞」のデカい看板も然り)。
で、在来線であるからして、日に何本か、キハ54が往来、停車する。まちが「すずらん」ブームの頃は、SLすずらん号もやってきた。
ちなみに、ここが撮影の舞台として白羽の矢がったのは、線路が長い一直線なこと、昭和初期という設定上、写り込むと都合の悪い近代的な建物が周辺にないこと、などが理由だったとか。
それにしても、ここに橋爪功さん演じる駅長が立ち、東京に行く萌が乗った汽車を見送るシーンは印象的。親心を覆い隠し「発車!」と叫ぶんだ。
ちなみに、本当の駅(待合室)は向かって左の建物だ。誰も気づかない(笑)
セットの明日萌駅が建っている場所は、その昔、旧恵比島駅舎があった場所。取り壊し、残っていた基礎部分を生かしセットを建てた。
実際に稼働するダルマ駅(貨車を転用してもの)は移設するわけにいかないので、ならば映り込んでも違和感がないようにと、板を張り付けて表側を隠してしまったのが今の状態。
さすが美術スタッフ。
まあ、これはこれで見映えは良いし、他のダルマ駅をこんな装飾をすればいいのにと思う。
留萌本線恵比島駅
住所:雨竜郡沼田町恵比島
駐車場:表示はないが駅前に駐車可
今回の3本は冬のシーンが印象的。
なので、行くなら雪とともに映画を回想できる、これからの時期がおすすめです。
また、明日萌駅(恵比島駅)は実際に列車が往来するので、運行の妨げにならないようご注意ください。
この記事のキュレーター
客室。とてもきれい。