2019年10月02日
今や〝おいしいブランド米″の代表格となった『ゆめぴりか』や『ほしのゆめ』。これらが旭川の隣、上川にある試験場から誕生していたこと、知っていますか?でも北海道には『不毛の大地』と呼ばれていた歴史があるんです。どうしてここまでおいしくなったのか?第3弾となる今回は、おいしくなった理由である「品種改良」の全貌をお届け!
簡単にいうと、新しい苗を作ることです!
ただ『新しい苗を作る』といっても、それにかかる歳月はなんと約8年。とにかく気の遠くなる作業なんです…。
旭川にもっとも近い場所で『品種改良』を行なっているのが、上川にある『上川農業試験場』。あの『ゆめぴりか』や『ほしのゆめ』、『きらら397』も『上川農業試験場』で生まれているんです。それだけで、めちゃくちゃすごい場所だというのがわかると思いますが…今回は!そんな『上川農業試験場』に、『品種改良』について伺いました。
1886年に上川に誕生した農業試験場。品種改良を行なう水稲グループ、農薬の効用試験・害虫の診断・栽培技術の開発を行なう生産環境グループ、野菜の栽培技術を研究する地域技術グループ、といった3つの研究グループがあります。
道内に9ヵ所ある試験場のなかでも、上川は広大な土地に大雪山からの豊富な水、さらには夏の温暖な気候が米づくりに適していることから、昔から水稲研究に力を注いできました。1980年に優良米開発の取り組みが始まって以来、ここから生まれた品種は数知れず…。
しかし!!!試験場で新たな品種を開発する研究員はわずか6人しかいないんです。彼らはどのような作業をして、数多くのブランド米を作ってきたのでしょう。水稲グループの研究員さんに、いくつか質問を投げかけてみました!
取材協力:上川農業試験場(取材内容は2017年10月時点)
「北海道米はまずい」と昔はよくいわれていました。それは気温が低くて稲の発育が遅いので、おいしさを蓄える期間が短かったからなんです。ですが1970年に国が米の生産調整を行なったため、売れる米にしなければなりませんでした。
そこで上川農業試験場では、米の味に影響する『成分』に着目して改良を続け、新しい稲をつくりました。不利な気候が成分に着目するという今のやり方を生んだんです。
おいしい米の特徴は簡単にいうと、でんぷんの一種である『アミロース』と『タンパク質』の量が少ない、ということなんです。アミロースを多く含んでしまった米は粘りが少なく、タンパク質が多ければ黒っぽく、硬い米になってしまうんです。
上川農業試験場では、これらの成分を計測できる機械を導入したことで、数値でおいしさを判断することができるようになり、日本人好みのモチモチとした米を開発することができたのです。
まず、稲の自家受粉を防ぐためにおしべを手作業でひとつずつ取り除きます。その後違う品種の花粉を人工的に受粉させる交配を行ないますが、稲を植えてすぐでは特徴にばらつきが出てしまうため、その後4世代までは植え続けて種を安定させます。
その後は生育状況や食味の評価を繰り返し、合格した稲が品種となります。毎年、80組み合わせほどつくりますが、それが最終的に品種となるのは、4~5年にひと組み合わせで、交配させてから品種になるまでには約8年がかかります。
生育が早いものや、冷害・病気・害虫などの耐性を持っている稲を選び、およそ数十種類にしぼった後にようやく食味の試験を行ないます。
1度目は機械測定である程度の選別をして、それからは1日に2回、グループの職員が実際に食べて評価をします。基準となるのは『ななつぼし』で、これを基準に外観・香り・味・粘りなどを相対評価していきます。
この仕事を始めて20年余りですが、1番印象的だったのは『ゆめぴりか』でしょうか。もちろん出来に自信はありましたが、味わいが今までの品種とは格段に違ったので、受け入れられるかが少し心配でした。
ですが、全国で行なった食味官能試験でも非常に高い評価を受けて、その後北海道米を代表する人気品種になってくれました。それに『ゆめぴりか』は『きらら397』以来に全国でCMを流したので、テレビで見るたびに「すごいものをつくったんだ」という実感がわいて、とても嬉しかったですね。
出典:asatan
米の成分や粘り・硬さなどを分析する装置が並ぶ部屋。なかには市販の機器を改造したものもあるそうです。
出典:asatan
短日処理棟と呼ばれる施設内にある、交配した稲が置かれる温室。袋には親となる品種の名前が書かれています。
出典:asatan
設定温度の異なる部屋が並んでいて、温度の違いで発育や米の成分がどう変化するのか研究する棟のこと。
出典:asatan
歴代の稲と現在活躍する稲が列ごとに植えられた敷地内の水田のことです。外見や発育の違いがよくわかりますね。
全3回にわたってお届けした、北海道米のおいしさのヒミツ、いかがでしたか?想像できないほどの作業、努力のうえにこのおいしさがあること、しっかり伝わりましたでしょうか?
ちなみに上川農業試験場で今年誕生した『えみまる』は、水田に苗ではなく種をまき育てる直播栽培品種で『ほしまる』の後継なんです。種になったことで作業負担が軽く、規模を拡大しやすいのが特徴だとか。
この先もきっと、さらなる進化をとげるであろう北海道米!これからどんなおいしさに出会えるのか、今から楽しみですね。さぁ、今年も新米たくさん食べるぞ~!
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出典:asatan