もう1度【黒薔薇】を誘い出す
B氏の追跡調査を続けて1週間が過ぎたが、相変わらず彼は動きを見せることはなかった。
どうやら【黒薔薇】はB氏がいなくても活動ができるぐらい構成員が多いのではないかと思われた。
こうなると少々やっかいである。
このままではラチがあかない。
我々は【黒薔薇】の正体を掴む別の方法を考えなければならなかった。
ひとつだけ、我々にも光が残されていた。
それは、JR旭川駅の伝言板のメッセージが、本当の依頼なのか、我々のワナなのか、彼らには判断できないという事である。
という事は、また誘き出すことができる。
我々はさっそく2人の大学生に協力を依頼して【黒薔薇】を誘い出す事にした。
今度は今まで以上のワナを仕掛けて…
協力してくれた学生はF君とK君。
まず、F君かが駅の伝言板にメッセージを書き込む。
そして、その夜… F君の家で【黒薔薇】からの電話を待った。
しかし、その晩は彼らからの電話はかかってこなかった。
なんと翌日の夜に電話があったのだ。
やはりB氏が抜けている支障があるのかもしれない。
我々は「写真を渡す」と言って誘い出そうとしたが、もうその手は通用しなかった。
1度痛い目にあっているせいか、彼らもより慎重になっていて、絶対に姿を見せないつもりらしい。
そのかわり、復讐してほしい相手の住所・電話番号・年齢・人相・体格などを根掘り葉掘り聞かれたのであった。
誘い出す作戦は失敗。
しかし、今度の作戦はさらに奥まで考えてあった。
ここが我々と、くだらんオタク学生の差である。
今度は【黒薔薇】が攻撃する相手まで、我々の協力者なのである。
もう一人の大学生K君がその人だ。
【黒薔薇】捕獲作戦開始!!
K君の家の近くで見張ろうものなら、すぐ彼らに見つかってしまう。
そこで今回は、K君の家にスタッフを2人泊まらせる事にした。
さらに某デザイン事務所の社長が趣味で持っている高性能望遠鏡(4km離れた人が2m先に見える)を借りて、約500m離れた場所にあるマンションの屋上からK君の家を監視した。
出典:asatan
彼の家は豊岡にある2階建てアパートの1階の道路側。
望遠鏡で捕えるには絶好の位置だ。
外にはK君の車が停めてある。
もちろん【黒薔薇】もK君の車を知っている。
もし彼らがK君の車にイタズラをしようとしたら、マンション屋上のスタッフが打ち上げ花火を1本(パーンと鳴るヤツ)打ち上げ、それを合図に部屋の中のスタッフが飛び出す手はずになっている。
夜9時30分。
まだ彼らは何もしてこない。
そこで我々から行動を起こしてみた。
K君が近くに買い物へ行くふりをして、サンダルをつっかけてワザと鍵を掛けずに出かけて見せたのだ。
これで果たして【黒薔薇】は現れるのか!?
【黒薔薇】の写真を撮った!!
現れた!
マンションの屋上からの望遠鏡は、K君の車に近づく2人の男を捉えたのだ。
奴らは運転席のドアを開けようとしたが、車には鍵を掛けてある。
2人はすぐに諦めて部屋のドアに近づいて行った。
部屋で2人のスタッフが息を殺して待ち構えていた。
1人は冷蔵庫の裏に身を潜め、もう1人は押入れに隠れて、わずかな隙間からカメラのレンズを覗かせていた。
【黒薔薇】の2人は、そ〜っとドアを開けた。
頭だけ部屋の中へ突っ込み、誰もいないのを確認すると、2人とも屈みこんでポケットから瞬間接着剤を取り出した。
どうやらK君の靴を床に貼り付けるつもりらしい。
なんともくだらないイタズラである。
今までもいろんなイタズラをされてきたが、〈本当によくもまぁ思いつくもんだ〉と思わずため息が出てしまった。
しかし、ここですかさずシャッターを押した。
モータードライブ500分の1秒。
最初の音で顔を上げた2人の顔も見事に捉えた!
4回目のシャッターが落ちた時、2人は部屋を飛び出し、冷蔵庫の影に隠れていたスタッフがその後を追って行った。
マンション屋上の望遠鏡は、慌てて部屋から逃げ出す2人と追いかけるスタッフを捉えていた。
奴らの逃げ足は早い。
スタッフは、みるみる引き離された。
200mほど離れた場所に停めてあった車に2人は飛び乗った。
その瞬間、車は急発進!
ライトも点けずに…。
どうやら、その車にも【黒薔薇】のメンバーが乗っていたようである。
しかも、発進してしばらくの間、ライトも点けづに走っていた。
あれでは、ナンバープレートは見えない。
イタズラのくだらなさと比べると、なんと手際のいい事か…。
【黒薔薇】から宅急便が!!
逃げられはしたが、【黒薔薇】構成員のうちふたりの顔写真をハッキリと撮ったため、編集部は湧き上がっていた♪
その余韻も冷めやらぬなか、ブーッとインターホンが鳴り、ひとつの宅急便が届いたのだ。
差出人を見て荷物を受け取ったスタッフの顔色が変わった。
なんと【黒薔薇】の名前が書かれていた…。
さらに、どこかで見ていたかのように奴らから電話が入った。
例のダックボイスを使って…。
「我々からのプレゼントが届いたようだね。別に危なくないから開けてみなよ」と言われ、意を決して箱を開けてみた。
中に入っていたのは『旭川タウン情報』の切り刻まれた無惨な姿であった。
創刊号4冊、8月号2冊、9月号2冊の計8冊がカッターナイフでズタズタになっていた。
さらに電話は続いた。
「我々の仲間の写真を撮ったそうだが、絶対にその写真を公表するんじゃない。今までは手を抜いてきたが、もし公表したら今度はシャレにならないようにしてやるぞ!」と。
「何をする気だ」と編集長は尋ねた。
すると「犯罪になるようなマネはしないがくだらんイタズラの100や200はすぐに実行できる。おまえたちの仕事の妨害をするくらいワケないぞ。例えば、こうしている間にも、駐車場のミラがどうなっていることか…。まぁ後は想像に任せるよ」と言って電話は切れた。
我々は、すぐに駐車場へ行った。
そこには見るも無惨なミラの姿があった…。
[Part.5]へ、つづく。
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