3年前の出来事
asatanを創刊した3年前。
話は1992年7月にさかのぼる。
当時、asatanスタッフは創刊号を発刊するにあたって、買物公園で、旭川の若者はどのような雑誌を求めているのかを調査していた。
いろいろな質問の中に「あなたが紹介したいサークルを教えてください」という質問があり、たくさんのサークル名が書き連ねられた。
その中にひとつだけ、奇妙な答えがあった。その名は【秘密結社 黒薔薇】。
旭川〇▽大学にあるといわれたそのサークルは構成員、活動内容など、すべてが謎に包まれていた。
asatanは、創刊の7月号から11月号までの5ヵ月にわたり、【黒薔薇】に関する取材を試み、彼らが恨みを晴らす代行業、いわゆる「仕事人」的な活動をしている実態をつかんだ。
だが、その捜査状況を誌面にて公開していくにつれ、彼らはターゲットを我々編集部にしぼりこんできたのだ!
彼らのその執拗なまでの攻撃は、我々の取材意欲をなくすのには十分であり、ついに捜査を断念せざるをえない状況に追い込まれてしまったのである。
かくして3年の歳月が過ぎ、我々はかつての悪夢を忘れ平穏無事に業務をまっとうしていた…。
悪夢が再び…。ひとつめの災い。
彼ら【黒薔薇】のいやがらせは実にさまざまで巧妙だった。
しかもその手口は車のマフラーにバナナをいれてエンストさせたり、女性用の下着、パンティーとブラジャーを車にくくり付けるなど、実に我々のの心理を逆撫でするような犯罪スレスレのものだった
もちろん我々にとってそのことは思い出したくもない過去のメモリーだ。
しかし、その悪夢を呼び覚ます、運命のいたずらが、ついに起こってしまったのだ!
これから我々の脳裏に一生、残るであろうこの事件は1995年6月17日、未明に発生した!
編集部の一人「田尾野悪迦死」(仮名)がふとメシでも食いに行こうかと駐車場に車を取りにいったときのことだ。
ふとみると彼の愛車がメチャクチャになっているではないか!
「ビーム弾とか出そうで強そうですね」なんて言うんじゃねえ! ったく、ムカつくぞ! コノヤロー!!
シートの頭をのせる部分が引き抜かれ、ボンネットの上におかれていた。
「ヤマトの主砲」もしくは「西部警察のフェアレディZ」のような形相!!
ドアミラーやルームミラーも確認ができないように適当な方向へ向けられ、しまいにはオートマ車なので、めったにしないはずのサイドブレーキがガッチリと引かれてたのだ。
おかげでその後、サイドを引いたまま約1キロもの距離を走ってしまったのだ!
壊れるじゃないか!!
そして、なんとよく見ると車の屋根の上に油性のマジックで彼らからのメッセージ書かれているではないか!
「我、再び行動せし。ハルマゲドンの炎と共に7つの災いきたるべき時分はよし。────黒薔薇」
「なにぃ!!黒薔薇だとぉおおお!!」
田尾野はアセッた。
それもそのはず、田尾野は3年目の事件時にはまだ、年端もいかぬチェリーボーイだったのだ。
悪夢が現実化したときのように田尾野の背中には冷や汗がビッシリと吹き出していた。
「……どういうことだ?予言の書のようなこの文面は……?」
油性マジックで書かれた、黒薔薇からのメッセージ。こんな所にサッと書けるなんて、犯人は相当の巨人とみた。
田尾野は一部始終を事務所に戻り我々に話した。
我々は田尾野が冗談を言っているのかと思った。
しかし、彼の車の状態を見たとき、【黒薔薇】の忍び寄る影を感じずにはいられなかった。
彼らはなぜ、今頃になって再び我々をターゲットにしてきたのだろうか…!!
結局、答えのでないまま、口惜しく、やりきれないハートで我々は立ち尽くした…。
七つの災い…!?そして、彼らの目的は…?
田尾野の車はひどかった。心理的屈辱感を味あわせてやろう、という犯人の意図がはっきりと感じられた。
どうやら、犯人は我々に精神的苦痛を及ぼすことによって、挑戦してきているのだ!
犯人のあざ笑う声が聞こえるようだ。
憎い、憎すぎる。
犯人は指紋一つ残さず、車を立ち去っている。衝動的なものではない。
すべては計画的なことなのだ。
「犯人は現場に戻る」ということはよく言われる事だが、今回の場合は例外のようだ。
犯人の戻りを予想して張り込んではみたものの、それらしき人影はいっさい姿を見せることはなかった。
どうやら、彼らの予言である7つの災いの現場を押さえ、現行犯で捕らえるしか我々の勝利はないようだ。
「プルルルルルルルルル…」
突然、沈黙を打ち消すように事務所の電話が鳴った。
「はい、あさひかわTOWN情報です!!」
編集部の黄粉間(仮名)が電話をとる。
「……………」
「もしもし? …あさひかわTOWN情報ですが? もしもし?」
「……………」
「もしもし? どちらさまでしょうか?」
「……………黒薔薇だ!」
…電話の主は確かにそう言った!
「くっ黒薔薇???」
3年前の大事件が黄粉間の頭をよぎる。
「我々からのメッセージ、受け取ってくれたかな…? ひとつめの災いと共にね」
ボイス・チェンジャーを使っているのだろう。ダースベイダーみたいな不気味な声だ。
「なんのつもりですか!!」
「ウフフフフフ…。これからわかるさ…楽しみにしててくれよ…。フフッ。ガチャッ、プーッ、プーッ」
そこで電話は切れた。
我々はワナワナとあたりどころのない怒りに震える。一体、なぜ彼らは今頃になって、我々あさタン編集部を標的にしてきたのか?
…まったくの謎である。
我々はこれから起こるであろう惨事に備えつつ緊急会議を開くことになった。
「クライアントなどに迷惑などをかけぬよう、外部には一切、黒薔薇について口外しないように…」
という編集長のひとことがやたらに我々の心に重くのし掛かった。
我々は狙われているのだ、と。
緊急会議が終り、平常業務に戻る。
しかし緊張感が常に付きまとう仕事はストレスという爆弾となって、我々の心に負担をかける。
メンタルな部分で業務に支障をきたしてはたまったものではない。
彼らのことを少しでもわかればそれなりの対応策も出てくるだろう。
そこで、我々は【黒薔薇】についての調査団を水面下で発足したのだ。
調査団には田尾野、吐水矢猛之(共に仮名)の2人が推挙された。
がんばれ調査団!!
そして、やつらの正体を今こそ暴くのだ!!
調査団の推理…。
【黒薔薇】が、大学生による秘密工作員集団であることは3年前の事件から明らかだ。
しかし、彼らが当時一年生だったと仮定しても、今年の春には卒業しているはずだ。
留年しているということも考えられるが、彼らが集団ということを考慮すれば全員、留年したというのは考えにくい。
ということは彼ら【黒薔薇】は全員が社会人であることが予想される。
しかも、今回の手口を考慮すれば、3年ぶりという感じではない。
より熟達され、かなり素早く作業をしたことがわかる。
彼らの仕事の依頼受付方法も、3年前から変わっており、駅の伝言板というものではなくなっていた。
駅員に訊いても、そんな依頼のようなものは書かれていないということだった。
何か手掛かりはないのか、我々はそう思いながら3年前の記事を穴があくほど見通した。
すると、ヒントともなりうる次の記述が書かれていたのだ。
(1992年10月号/web版 Part.4参照)
「我々の協力者、大学生K君が…」
K君!
誰だこれは?
編集長に尋ねてみると、どうやら当時の教●大の2年で、現在は市内のある学習塾で講師をしているらしい。
K君ならなにか知っているかもしれない…!
幸い彼の住所録は会社の資料室に残っていた。
彼に電話をするが、出ない、留守のようだ。
しかし、我々は一時の猶予も許されない事態に直面している。
田尾野と吐水はK君を張り込みするべく、彼のアパートへ向かった。
K君との再会、そして第二の災い。
時計の針は午前零時を指し、K君のアパートの周りは静寂に包まれていた。
田尾野がフッと居眠り始めた午前1時、吐水が田尾野を起こしながらこう言った。
「田尾野さん、起きてください。K君が来ました!」
K君は足早に階段をかけ上がると、辺りを見回すように用心深く部屋の中に入っていった。
その様子はひどく不自然で、まるで誰かに尾行されているいかのようだ。
ここまで来たら、なんとかK君の意見を訊かなくてはならない。
我々は車を降り、アパートへ向かった。
張り込みの結果やっと表れたK君。あたりをうかがうK君の姿に緊張感が漂う。何者かに狙われているのだ!
K君のアパートは薄暗く、ついさっき人が入ったとは思えないほどの静けさだった。
ピンポーン。
チャイムを鳴らすが誰も出ない。
居留守は無用だ。
なにしろ、30秒前にこの部屋にK君が入ったのを目撃したのだから。
「すいませーん。すいませーん、Kさん、いないんですかー」
「………」
無言の返事だ。
「いないんですかー! asatanなんですけど!」
「………asatan?」
中からK君の声が聞こえた。
何かに怯えているようだ。
もしかして…? くっ黒薔薇?
ドア越しにここに来た理由を順を追って説明する。
事のいきさつを教えると、K君は
「やっぱり、そうか…」
といわんばかりにドア越しにまで聞こえるほどの溜め息を漏らした。
「どうぞ」
突然ガチャッとドアが開く。
部屋の奥は真っ暗で薄気味悪かった。
ぼんやりしてると
「早く! 入ってください!」
とK君が凄む。
やはり何者かの目を気にしているのだ。
こちらがK君。今後の生活の保護をするため、素顔はお見せできない。実はなかなかの好青年。
奥に案内されるとK君はドカッと腰をおろし、煙草に火をつけた。
「フーゥッ、黒薔薇か! ちくしょう、あいつら…」
K君はまるで我々に対する怒りでもあるかのように、田尾野を睨みつけると、
「俺もあいつらには困ってるんだ! なんとかしてくれよぉ!」
と、今にも泣きださんばかりに我々に訴えた。
とはいっても、お願いしたいのはこちらのほうだ。
「どうしたんですか! K君も黒薔薇に変なことをされてるんですか!」
「………そうです! あいつらの今の手口を知ってる? 以前よりも数段悪質になっていますよ! …部屋にまで来るんです! 突然、寿司の特上が10人前にざるそばが5人前、かつ丼5人前が届けられたり、無言電話。いたずら電話はもちろん、ここの部屋のやつは変態で女子中学生たちにストリーキングしているとかいう噂が近所に流れたり……、最低だよ!」
「いつぐらいからですか?」
「最近ですよ! …実は3年前あの特集が終わってからもやつらからの嫌がらせは続いたんです。いきなりアパートに帰ると、"密告者め! 殺す!"と書かれた張り紙が貼ってあったり…、あさタンに情報を流していることをやつらは知っていたんです。最近は何ごともなかったんですがね…。今じゃ、いつも居留守を使ってるんですよ。寿司屋が来ても、誰もいなけりゃ諦めて帰ると思って…。情けないけど…。」
うつむいたK君を見ていると我々は無性に腹が立ってきた!
【黒薔薇】め!
正々堂々勝負しろ!
そう思った瞬間、我々の車のほうから、パンパンという火薬音のようなものが聞こえてきた…。
まさか【黒薔薇】か⁉
我々はとっさに立上り車のほうへと走った。
すると、何と、田尾野の車の周りに3人ほどの人影がうごめいているではないか!
「おい!」
田尾野が興奮気味に叫ぶ。
人影はこちらにすぐ気付いたらしく、田尾野が叫んだ瞬間には、すでに車の周りから散らばって、走り出していた!
吐水が追いかけるがどこにもいない。
「どこだ⁉ どこなんだ!!」
ふりかえると車のブゥーンという音が静寂の中にこだましていった。
我々の車は?
奴らを追跡するんだ!
田尾野は一目散で車に乗り込みキーを回した。
ところが、キーを回しても車はピクリとも動かない。
なぜだ! なぜなんだぁー!!
外見はどこもおかしくない。
田尾野の車は買ってからというもの、どこも壊れずに快調に走るマシンのはずだ!
まさか、これも【黒薔薇】の仕業だというのか!
あきらめ気味にボンネットを開けてみる。
すると、そこには世にも恐ろしいモノが…!!
[中編]へ、つづく。
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