ビルの所有者か駐車場を管理する店舗か責任の所在はが分からず…
すぐに戻り、そのスポーツクラブのマネージャーに弁償して欲しいと訴えたら、マネージャーが「スポーツクラブはテナントとしてビルに入っているだけなので、ビルの持ち主に請求してください」と言うので、ビルの管理会社へ連絡しました。
すると、そこでは「その駐車場はスポーツクラブを利用する人専用となっているので、スポーツクラブに請求してください」と言われました。
一体、私はどちらに弁償してもらったらいいのでしょうか?
運転に支障があるほどではありませんが、凹んでいるのはハッキリわかるので修理をしたいんです。
たらい回し状態で、どちらに管理責任があるのかわかりません。
(旭川市/T・T)
ビルの所有者は安全性を確保する義務がある
まず、ビルの所有者に対して、請求できるか否かについて考えてみます。
本件は、恐らくビルの屋根の安全性の問題だと考えられます。
民法第717条には、『土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。
ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。』という規定があります。
ビルも土地の工作物ですから、ビルを占有しかつ所有していると思われる本件ビルの所有者も、その屋根について、他人に損害を生じないように十分に安全性を確保する必要があります。
設置または保存の瑕疵とは、通常の安全性を備えていないという意味です。
本件ビルの屋根が、豪雪地帯であれば当然備えるべき雪止め金具や融雪ネットの取り付け、あるいは電気式屋根融雪システムなど、落雪を防止する措置を講じていないビルだとしたら、ビルの屋根の安全性に瑕疵があると言えると思います。
ですから民法717条によって、あなたは直接ビルの所有者に損害賠償を請求することができそうです。
これとは反対に、本件ビルの屋根が雪止め金具や融雪ネットの取り付けなど豪雪地帯のビルとして通常備えるべき落雪防止措置を講じていたものの、通常の予測を超えるような大雪が短時間で降ったために落雪事故が生じた場合には、ビルの所有者に損害賠償を請求することができません。
店舗側も落雪を防ぐ措置を講ずる必要がある
次に、スポーツクラブに対して損害賠償を請求できるか否かを検討します。
この駐車場はスポーツクラブを利用する人の専用になっています。
ですから、スポーツクラブ利用契約の当然の中身として、駐車場をお客さんに利用させる以上は、豪雪地帯の旭川ですから、ビルの屋根から落雪によって車が損傷しないように、駐車場自体の安全性を保つべき義務がスポーツクラブ側にあるものと考えます。
仮に駐車場に隣接したビルの屋根が、豪雪地帯であれば当然備えるべき雪止め金具や融雪ネットの取り付けなどの落雪を防ぐ措置を講じていなかったとすれば、スポーツクラブとすればそもそもそのような措置がビルの屋根に講じられているかを調べ、雪の落下を防ぐ措置を取るようにビルの所有者に要求し、その措置が講じられるまでは危険な駐車場の利用を禁止するなどの安全対策を取る必要があります。
このような義務をスポーツクラブが怠った結果、本件事故が発生したのであれば、スポーツクラブに対して、債務不履行に基づく損害賠償請求が可能です。
自身でも事故を予測して行動する事が求められる
他方で、ビルの屋根には通常備えるべき雪の落下を防ぐ措置が講じられていたものの、通常の予測を超えるような大雪が短時間で降ったために、結果として本件事故が発生した場合には別の考慮が必要になります。
スポーツクラブとしては、通常の予測を超えるような大雪が降っていること自体は認識できますから、そのしばらく後に発生するであろう落雪事故についても予測が可能だったといえそうです。
ですからスポーツクラブとしてはそのような事態を予測して、通常の予測を超える大雪が降った後、速やかにそのような事故が発生する可能性がある駐車場の区域について使用禁止の措置をとるべき義務があったと考えられます。
ただこの場合、あなたにも事故の発生について過失があると言わざるを得ません。
あなたも通常の予測を超える大雪が降ったことは認識できていたはずですから、通常の雪の量では落雪事故が起きないビルの屋根からも、落雪が発生することは予測可能ですし、ビルの屋根を見上げれば落下の前には今にも落ちそうな雪が屋根の端からはみ出しているのが見えたかもしれません。
それらの事情を考慮して、被害者であるあなたにも過失があるとして、公平の観点から3割から4割程度の過失相殺がなされることになるでしょう。
屋根がへこんだ車の修理費が30万円かかるとすると、過失相殺の結果18万円から21万円程度の損害賠償が可能となるということになります。
損害賠償の請求には注意が必要
ところで、最初に述べたビルの屋根が通常の安全性を備えていない場合に、ビルの所有者に対してもスポーツクラブに対しても損害賠償を請求できるケースについて、車の修理費が30万円かかるとすると、30万円×2=60万円が請求できるというわけではありません。
この場合のビルの所有者とスポーツクラブの損害賠償債務は、不真正連帯債務といって、両方合わせて30万円に達するまで支払いを行なえばそれで債務が消滅するという性質のものです。
当然ですよね。
北村 晴男
弁護士(東京弁護士会)
■1956(昭和31年)年生まれ。長野県出身。
■1992(平成4)年に個人事務所を開設し、2003(平成15)年に法人化。生命保険、交通事故、医療過誤、破産管財事件、家事事件など多岐にわたる事件を処理している。
■弁護士法人 北村・加藤・佐野法律事務所代表。
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出典:asatan
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