ささいな事で職場内で変な噂をたてられ耐え切れず退職…泣き寝入りするしかないのか
先日上司に仕事の相談をするため、2人で会社近くの店で食事をしました。
そこにちょうど同僚が2人来て、私たちの近くの席に座りました。
挨拶をしても気まずそうな振る舞いをされ、感じ悪いなぁ… と思っていると、次の日には「あの2人はデキてる」という噂が立ち、あっという間に広まりました。
最初は相手にしませんでしたが、どういうわけかわからないけど妻子もいる上司が「ちょっと遊んだだけだ」と発言したらしく、噂は本物だと認定されたそうです。
その後は同僚や後輩に「そう思われている」と思うだけで気持ちが悪く職場の居心地もどんどん悪くなり、耐え切れず退職を決めました。
後ろめたいことは何ひとつないのに、仕事を失くしたことが悔しくてたまりません。
噂を立てた人も、ふざけた発言をした上司も、それを信じて広めた人たちも許せないです。
ですが、もう泣き寝入りするしかないのでしょうか? 噂にまつわる人を訴えることはできますか?
(R恵/22歳)
その場の状況や後の対処の仕方によって状況が大きく変わる。
「ちょっと遊んだだけだ」と発言した上司が1番悪いことに間違いありませんね。
ただしR恵さんが、職場の皆さんに、「あの時は単に仕事の相談をしていただけで、一切なんの関係もありません」と説明したかどうかが分りませんが、本来はそういう説明をすれば少なくとも親しい人はわかってくれますよね。
その努力をしなかったとすれば不思議ですけれども(ここからは、その様な努力をしなかったと仮定して説明します)、上司の「ちょっと遊んだだけだ」という発言は、部下のR恵さんと男女の関係を持ったと誤解されてもやむを得ない言い方です。
上司にそんな発言をされることは、部下のR恵さんにとっては大変つらい事ですね。
そのことによって最終的に辞めざるを得なくなったとすれば、この発言をしたこと自体が、不法行為とされる可能性は十分にあると思います。
事実に反することを言って女性を傷つけ、かつ有りもしない噂が広まる、ということを助長したことは間違いない。
ただ、それによって退職せざるえなくなることについてはご本人の責任も少なからずあると思います。
否定をなぜしなかったのか。
しているにも関わらず誰も信じてくれなかった、というのであれば、しょうがないですが…。
きちんと、誤解を正す行為をしなかったことは、最終的には過失相殺という形で損害賠償請求額を削られる可能性があります。
それを信じて広めた人たちについて責任があるかというと、これはなかなか難しいです。
不特定または多数の人に聞こえるように「2人は関係があるんですよ」と言ったとすれば、明白に名誉棄損になります。
特に、妻子のある上司と男女の関係になることは、社会的な評価を下げますから、名誉棄損になるわけですが、噂話をした時は“ごく少数の人に話をしただけだ”とすれば、原則として名誉棄損にはなりません。
人間は、良いかどうかは別として、ヒソヒソ話や人の噂話をするのが基本大好きな動物ですから、それを原則不法行為とするのは相当ではありません。
あくまでも不特定または多数の人に向かって言ったり、書いたりすることが名誉棄損になるわけです。
最初から、この2〜3人に話せば社内中に広がることを想定して話をしているというような特殊な事情がない限りは、名誉棄損にはなりません。
損害賠償を請求するには相当因果関係がとても重要になってくる
最初に「あの2人はできているんじゃないかな」と噂話をした人も一緒です。まぁ多少の誤解で、そういう噂話をしたわけですけど、きちんと訂正すれば「あ〜なんだ」となるのが普通ですから。
なので、最初に噂話をした人、あるいは上司の発言を聞いて、それを信じて噂話をした人、そういう人たちは基本的に責任を負うことはありません。
問題は、妻子あるこの上司が「ちょっと遊んだだけだ」と発言したこと。男女の関係をもったと誤解されてもおかしくない内容なので、「そんなことは分りませんでした」という弁解は許されません。
上司がたとえ数人に話しただけでも、ある1人に話しただけでも、不法行為になる可能性は十分にあります。
ただし、損害をどうやって認定するかですけれど…。
それによって傷ついた慰謝料は、30万円なのか50万円なのか明確ではありませんが、数10万円単位の慰謝料が認められる可能性があります。
ただ会社を辞めることになってしまった、仕事を失くしたことによる経済的な損害も賠償請求できるかというと簡単ではありません。
なぜならば、不法行為と損害との間に相当因果関係が必要ですが、この程度のことで会社を辞めざるをえなくなることを普通に予測できるか、という話です。これは微妙だと思います。
「それは若い女の子だから、そんなことを言われたら辛くて辞めてしまいますよ」という見方もできますし、「そんな事実ありませんよ、きちんと説明すれば皆分ってくれて、辞める必要はなかったはずです」と反論されてしまう。
当然上司としても、「ちょっとした冗談… ちょっとした嘘をついたけれども、そんな話は否定されると思っていたんだ、普通は辞めないよね」と反論しますが、これが認められれば相当因果関係が否定されて、退職したことによる経済的損害、再就職するまでの給料相当額を請求することはできないということになります。
仮に相当因果関係が認められた場合でも、最初に申し上げたように過失相殺という余地はあります。
これで仕事を失ったのだから6ヵ月分の給料を払え、6ヵ月分の給料が損害だと裁判所が認定したとしても、そうなったのには自分が何の反論もしなかった、本来反論をすべきなのに反論をしなかった、というような落ち度があるよね、ということで3割とか4割とかが過失相殺される可能性があります。
北村 晴男
弁護士(東京弁護士会)
■1956(昭和31年)年生まれ。長野県出身。
■1992(平成4)年に個人事務所を開設し、2003(平成15)年に法人化。生命保険、交通事故、医療過誤、破産管財事件、家事事件など多岐にわたる事件を処理している。
■弁護士法人 北村・加藤・佐野法律事務所代表。
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出典:asatan
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