友人に貸していたゲームを勝手に売却された!口約束だけで弁償できるのか…
ところが何度言っても、なかなか返してくれず、おかしいなぁと思ったら、その友人Aは僕が貸したWiiや2本のゲームソフトを勝手に売っていたことがわかりました。
友人Aに「弁償してくれ」と言っても、その友人Aは「半年もウチに置いておくんだから、くれたんだと思った」と言い張ります。
借用書などはなく、口約束でしかありませんが、あくまでも貸したんです。
ゲーム機とソフトを勝手に売られて腹の虫がおさまりません。
なんとか彼に弁償してもらう方法はないのでしょうか?
(哲雄/28歳)
損害賠償請求が難しい場合には少額事件訴訟も
当然ながら、「半年間返してくれと言わないから、くれたものだと思った」という言い訳が通じることはありません。
貸したモノが「半年経過したら相手のモノになる」はずがないのは当たり前です。
ただし、この場合Aが第三者にWiiと2本のゲームソフトをすべて売ってしまっているので、第三者から取り返すのは、かなり難しいです。
と言うのは、Aからこれらを買った人… 買った人をBさんとしましょう。Bさんは、(過失なく)Aのモノだと信じて買っているでしょう。
この場合、動産の即時取得(民法192条)といって、このゲーム機とゲームソフトの所有権を、Bさんが有効に取得します。
善意取得とも言います。
そうすると、相談者はBさんに対して、「それは私のモノだから返してください」と言うことができません。
元々は自分のモノだったのに、即時取得によって、Bさんが有効に所有権を取得したことで、相談者は所有権を失います(これを反射的効果といいます。)。
そうすると、相談者はAに対して損害賠償を請求するしかありません。
ただし、仮に新品の価格がWii本体2万円、ソフト1本5000円、合計3万円としても、これをそのまま損害として請求できるわけではありません。
損害額は、Wii本体と2本のゲームソフトの中古としての時価相当額です。
中古ショップなどで販売されているのであれば、その販売価格が損害になります。
中古の価格が、仮にソフトが1本2500円、2本で5000円、本体が1万円とすると、全部で15000円になり、これを損害としてAに請求することができます。
請求しても支払ってくれない、請求しても「そんなの知らないよ」って言われた時には、どうするか…。
少額事件訴訟という手続きがあります。
これを自分で勉強し、簡易裁判所で訴訟を起こすという方法が一つあります。
かなり、手間がかかりますが勉強にはなります。
そうすれば、判決がもらえるでしょう。
「15000円支払え」という判決が出てもまだ相手が払わないということになれば、相手の預金口座… さすがに15000円ぐらいは預金口座に入っているとすれば、その預金口座を差し押さえて回収することになります。
それについても、弁護士費用をかけると費用倒れになりますから、差し押さえの手続きを勉強して自らやってみるということが可能です。
しかし、かなり時間と労力をかけることになります。
横領罪を成立させるか警察に話をしてもらう方法も
他方で、手っ取り早い方法があります。
本件は「貸したモノを勝手に売られてしまった」ので、横領罪になります。
横領罪は、自己の占有する他人の物を横領(自分の物であるかのように勝手に売却、処分等)することで成立し、5年以下の懲役に処せられます。
たとえ時価15000円でも人のモノを勝手に売れば、横領罪が成立することは間違いない。
そうなると警察に被害申告をするのが有効です。
そうすれば、あっという間に解決するかもしれません。
15000円は、Aでもなんとか調達できそうなお金ですね。
働いていれば給料の中から出せばいいし、預金もあるかもしれない。
15000円相当の被害申告を受けると警察は現実にどう動くか…。
通常の捜査をしてくれるかというと、それはまずない。
例えば、警察官の考え方次第ですが…。
時々あるのは、Aを呼び出して話をしてくれる。
「これ、犯罪ですよ、わかっていますか? 仮に被害弁償をすれば被害申告を取り下げて、もういいですよってことになるけれども、弁償しなければ、これは犯罪として立件せざるを得ませんね」という話をしてくれる。
するとAがビビッてすぐにでも被害弁償するということになります。
仮に警察が最初は何もしてくれなかったとすれば、「これはもう犯罪なので捜査してもらわなくては困る」と強く申し入れる。
その場合に、一つだけネックになるのは、「半年間何も言ってこなかったんで、くれたものだと思いました」という弁解がどの程度説得力があるかということです。
横領罪は故意犯なので、自分のモノだと思い込んで売っていれば、成立しないんです。
人のモノだと知って売れば横領ですけれども自分のモノだと思い込んでいたなら犯罪の故意がなく、横領罪は成立しない。
同様の被害者を募って行動を起こす事で解決へ進む事も
そこでなんですが、私の経験上、こういう人は大抵常習犯です。
窃盗とか横領というものは、普通の人はまず絶対やらないものです。
人から借りたモノをなかなか返さない人はいるんですが、これを売ってしまうというのは、かなり特殊な人で、こういう人は同じことを繰り返しています。
なので、Aの友人に聞けば多くの場合、この相談者以外にたくさん被害者がいます。
ちょっと情報収集をすれば分ります。
そういう人がみんなで警察に行けば警察としては、「これはもう常習だな。
くれたもんだと思いましたなんて嘘の言い訳だ」として、実際に捜査をし、場合によっては逮捕、勾留にまで至ることがあります。
なので、警察がすぐに動いてくれなくても諦めない。
実は、みんな諦めているんですよ。
「しょうがない。わざわざ警察に行くことでもない」とみんな思いますから。
それに甘えて次から次へと人から借りたモノを売っているというケースが多いです。
こういうことをしている人を止めさせるには警察のご厄介になってもらうしかないですよ。
これは癖ですからね。
この間も東北楽天ゴールデンイーグルスから読売ジャイアンツに移籍した選手がロッカールームから有名選手のバットやグラブを勝手に盗んでオークションに出していたことで問題になりましたよね。
ああいう人は、生きていく過程で周りの人にずーっと同じ迷惑をかけてきたのかも知れません。
一般論としては、そういう人が多いです。
よくよく考えてもらえばわかるんだけど、まともな人が「そんなことする?」ってことです。
真面目な人がお金に困って、たまたま手を出したってことは、すごく少ない。
真面目な人がお金に困れば、(選り好みしなければ仕事はいくらでもある日本では)真面目に一生懸命働くか、人からお金を借りて真面目に返します。
そうせずに人のモノを盗んだり、人のモノを勝手に売ってしまうのは癖です。
こういう人は少なくとも1回警察の厄介にならないと直らないです。
ずーっとやり続けます。
ですから、警察に頼むということ… 被害申告するというのは、すぐにお金が返ってくるという効果が期待できるのと、Aが今後2度とやらないという抑制効果も期待できる。
社会に甘えている人間ですから…「困ったら人のモノを盗んだり、人のモノを売ればいい」と思っているので、お灸を据えることが重要ですよね。
北村 晴男
弁護士(東京弁護士会)
■1956(昭和31年)年生まれ。長野県出身。
■1992(平成4)年に個人事務所を開設し、2003(平成15)年に法人化。生命保険、交通事故、医療過誤、破産管財事件、家事事件など多岐にわたる事件を処理している。
■弁護士法人 北村・加藤・佐野法律事務所代表。
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出典:asatan
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