花巻そばとは
花巻そばとは、熱いかけそばに海苔を散らしたもの。
海苔の香りを楽しむ粋な一杯に、そば通は一目置く。
■花巻は地名にあらず
世は空前の「大谷ブーム」。だから彼に縁のある地名のついたそばをネタにするなんて、魂胆が見え見えね。
と思った方も多かろう。
ところがどっこい、花巻そばの花巻は地名ではない。及び、花巻(岩手県)生まれのそばではない。
発祥は江戸時代。大衆にそば食が根付いた江戸で花巻は生まれた。
当時、海苔は高級品。これを惜しげもなくたっぷりともりつけたそばは、江戸っ子に好まれたことだろう。
海苔は「磯の花」との異名もあり、海苔を散らした様子が、花びらが巻いているように見えることから「花巻き」と呼ばれたとか。※諸説あり
うーん、それは後付けっぽいと思う筆者。
花(海苔)をまき散らした(撒き散らした)から「花撒き」。それが実在の地名とごっちゃになって、いつしか花巻の文字が充てられるようになった、というのが筆者の見方だ。※あくまで私見です
■お江戸はわさび、北海道は生姜?
お江戸(食の話をするとき筆者が言う東京のこと)の老舗では、花巻そばの流儀として、薬味はネギでなくわさびを少々。
わさびのおかげで磯の香りが引き立つとか。
これに対して、北海道では(筆者の知る限り)おろし生姜を付ける店が多い。
明治以降、花巻が伝わったが、北海道では本わさびが手に入らず、生姜を代用した。または寒冷地では体の温まる生姜が好まれたから、というのが筆者の推測。
まあ、北海道流というのがあるのも悪くない。
本文では、旭川では逆に希少な、お江戸流の花巻を出す店も紹介。必見だ。
『そば源豊岡店』流の花巻そば
多数の本支店で旭川を席巻する「そば源」。
全店をコンプリートした結果、6店中2店で花巻を出していることを確認している。
曙にある本店、そして今回お邪魔する豊岡店がそれだ。
花巻そば(750円)
お品書き。『花巻』には「しょうがにのりが入ってます」と加筆が。
他の品の多くは特に但し書きがない中、花巻に注釈がついているのは、問い合わせが多いからかな。
「すいませーん、花巻って何ですか」と。
知らないヒトは知らないよね。まさか、花を巻いてあるの? とまでは言わないと思うが、花巻の文字だけでは想像はつかないだろう。
見た目、確かに海苔が。
注釈にある「しょうが」は見当たらない。
おや、おろし生姜らしきものが。
そばつゆに混ぜ込んだ状態だ。
味わえば、おおっ生姜の風味がぴりっと来る。
食べ進みさらに思う。生姜が嬉しいくらいに効いてるねえ〜。
同店は、すきっとかえしの効いたおつゆだから、生姜の香味がより引き立つのかな。
また、そのおつゆの中で、更科の風味が上品に香る。
生姜の香り、そばの穏やかな食感に身体がじわじわと温まってくる感じがする。
画像上。終盤の残り汁。
ああ、けっこう使ってるんだな、生姜。こりゃ効くはずだ。
メニューにあった注釈に偽りなし。
お店情報
店名:そば源 豊岡店
住所:旭川市豊岡8条7丁目
電話:0166-32-3338
営業時間:11:00~20:00
定休日:木曜
駐車場:あり
おなじみ、狸がお出迎え
帰りはお見送りしてくれる(笑)
『はま長本店』流の花巻そば
我が生活圏にある、訪問回数的にも多分、人生で最もお世話になっている蕎麦店。
何しろ、ここのそばは飽きが来ないんだな。
花巻(847円)
同店も、メニューには「生姜・海苔入り」と加筆。
加えて、現物にはほうれん草が飾ってあり、シックな彩が何とも粋だ。
そばつゆの上にふんわりと、おろし生姜がたっぷり。
いいですね、ショウガオール(生姜の辛味成分)が効きそう。
ちなみに、生姜には胃液を分泌して消化吸収を助ける効果があるそうな。
きりっとしたそばつゆに生姜。これに同店の素朴な香味の更科が引き立つ。
前掲、そば源もそうだが、更科と生姜って合うようだ。
お店情報
店名:はま長本店
住所:旭川市3条通6丁目
電話:0166-22-2731
営業時間:11:00~翌1:30
定休日:日曜
駐車場:なし
『氷雪庵』流の花巻そば
地場産センターの、あ、今は「道の駅」と言わねば若者には通じないんだっけ。
ともかくは、そこのフードコートにあるそば店だ。
注文したそばを受け取った瞬間、そのスタイルに、ここが出すのは本場お江戸流の花巻なのか!?と、お江戸食文化大好きな筆者は身震いを覚える。
花まき(820円)
おおっ、どんぶりを覆う大きな蓋(ふた)。
これですよ、これ。お江戸「花巻」の流儀のひとつ。
この蓋は出前に使う保温用ではない。そばの上に海苔を盛って客に出す前に蓋をして数秒蒸らす、というお江戸流の作法を踏襲してるこの店、只者ではないぞ。
蒸らすことで海苔が柔らかくなることで(解けが良くなると言う)、海苔がそばつゆに溶け込んだり麺に絡みやすくなるのだ。
そうするとどうなるのって?
野暮なことをお聞きなさんな。美味しくなるに決まってるでしょ(笑)
さらにお江戸流はこの「わさび」。
同店オーナーはお江戸のお方なのだろうか。あるいは向こうに精通されたお方なのか。
ともかくは、そろそろ頂かないことには。
海苔は蒸してもそばは伸ばすなと言うじゃないすか。※今思いついた格言(笑)
そばを覆い尽くさんばかりに、海苔がたっぷり。
海苔で食わすというそばは、やはりこうでなくちゃ。
画像上。ちなみに別な日は(リピートしてるしw)こんな感じ。
日によって作り手が違うのか、雰囲気も違う。
海苔がひたひたになって、もう沼である。
画像上(これも前掲と同日のもの)。
さらには、お気づきだろうか。この花巻、薬味のネギがない。
沈んでないかと、一応、海苔をずらして探してみたが(笑)やはりなし。
ネギを付けない、というのもお江戸流花巻の流儀のひとつ(諸説あり)。
ネギの強烈な香りがすると海苔の香りが失せてしまうからだ。
うんうん、いいですよ。ネギなんかなくっても。金払ってるんだからネギ寄こせなんて言うもんですか。
まずは、わさびなしで、蕎麦と海苔を堪能する。
そばに絡む柔らかな海苔。これが口の中でふわふわと溶けると、そばの磯の香りが相まって、ああ何たる口福。
改めて、海苔好きな自分を思い知る(ちなみに寿司屋でも軍艦、巻物多し)。
で、中盤以降は「わさび」の香りとともに。
わさびを少しずつ、そばつゆに解いて加えてみた。
そばつゆに広がる鮮烈な香りと味。ほんのりとした辛さはあるが、わさび特有の微細な甘味もあって、つゆが断然旨みを増した。
お陰で、海苔の味わいがいっそう深みを増し、おおっ、これは何とも粋な味わい。これをアテに酒もやれそう(笑)
これにそばの素朴な香味が引き立ち、食欲が増進。
いやはや、薬味とはこんなにも分かりやすく効果を発揮するものか。
花巻のおいしさもさることながら、そば職人が生み出す工夫に感心しきりの筆者である。
お店情報
店名:そば処 氷雪庵
住所:旭川市神楽4条6丁目 道の駅あさひかわ
営業時間:11:00〜20:00
定休日:不定休
駐車場:あり
美味しいもの、旨い酒を味わう時間が何より大事。
不惑の呑兵衛を目指すべく、きき酒師の資格を取得。
・SSI認定FBO公認 きき酒師
・日本酒WEBメディア SAKE TIMES ライター